スマートフォンなどのスマートデバイスに搭載されているフォトプレチスモグラフィー(PPG)センサーは、心房細動(AF)検出に有用な脈拍の乱れを感知できる可能性がある。オーストリア・Innsbruck Medical UniversityのAxel Bauer氏は、機種を限定せずにスマートフォンにダウンロードしたアプリのAF検出能を検証したランダム化クロスオーバー比較試験eBRAVE-AFの結果を、欧州心臓病学会(ESC 2022、8月26~29日)で報告。通常診療より検出能が高かったと発表した。
対象は、50歳以上で脳卒中リスクがあるものに限定
米国で行われたApple Heart Study(N Engl J Med 2019; 381: 1909-1917)をはじめ、スマートデバイスを用いて不整脈を検出する検討はこれまで幾つか行われ、一定の成果が得られている。しかし、特定のメーカーのデバイスが対象、ランダム化試験でないなど、研究の限界が指摘されていた。
Bauer氏らは今回、高齢者を対象にスマートフォンのアプリによるAF検出能について、機種を限定せずに通常診療と直接比較することで、その有用性を検証する医師主導ランダム化比較試験を実施した。 試験はオンラインで実施。①50~90歳、②CHA2DS2-VAScスコア1点以上(女性は2点以上)、③AFの既往なし、④抗凝固療法による治療歴なし―に該当するドイツの保険大手Versicherungskammer Bayernの契約者を対象にリモートで参加者を募集。コミュニケーションは本試験のアプリを通じて行い、対面での接触は行わなかった。登録期間は2020年2~7月とした。
フェーズ1、2でクロスオーバーして観察
試験はフェーズ1(6カ月)および2(6カ月)の2つのパートから成り、フェーズ1では、グループ1(2,860例)がスマートフォンによるAFのデジタルスクリーニングを、グループ2(2,691例)が症状などがあれば受診する通常診療を受け、フェーズ1で主要評価項目を達成しなかった患者がそのままフェーズ2に参加し、フェーズ1の内容をクロスオーバーしてグループ1が通常診療(2,365例)、グループ2(2,387例)がスマートフォンによるデジタルスクリーニングを受けた。
デジタルスクリーニングの方法は、参加者が個人のスマートフォンにPreventicus Heartbeatsアプリをインストールし、人差し指で1分間、PPGによる測定を繰り返す作業を最初の14日間は1日2回、その後は週2回、6カ月間実施した。また、異常なPPGは、ループレコーダーにより14日間測定した。
主要評価項目(フェーズ1のみ)は、本試験と関連のない医師の判断に基づき抗凝固療法を開始した新規診断のAF、副次評価項目(フェーズ1、2共通)は新規診断のAF、新規の抗凝固療法導入、脳卒中および塞栓症イベント、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準2以上の出血とした。フォローアップについては、試験アプリや電話、保険請求などに基づいて行った。
グループ1とグループ2の主な患者背景は、年齢がそれぞれ65歳、66歳、女性がともに31%、CHA2DS2-VAScスコア中央値が3点などであった。
フェーズ1、2ともデジタルスクリーニングによるAF検出能が高い
解析の結果、フェーズ1における主要評価項目の発生率はグループ2の17/2,691例に対し、グループ1では38/2,860例と有意に検出能が高かった〔オッズ比(OR)2.12、95%CI 1.19~3.76、P=0.010〕。同様の結果は、クロスオーバーしたフェーズ2においても見られ、デジタルスクリーニングのグループ2では33/2,387例、通常診療のグループ1で12/2,365例と、デジタルスクリーニングによる検出能は引き続き優れていた(OR 2.75、95%CI 1.42~5.34、P=0.003)。
副次評価項目については、フェーズ1および2のいずれも、新規診断のAF、新規の抗凝固療法導入の割合のORはデジタルスクリーニングを行ったグループで有意に上昇した。フェーズ1、2を通じて、デジタルスクリーニング中に85/5,247例が新規にAFと診断された。うち、通常診療でAFと診断されたのは31%、PPGで異常を検出でき、最終的にループレコーダーでAFと確定したのは69%だった。なお、PPGで異常を検出できたのは173例だったことから、今回のアプリのAF診断率は約35%だった。
追跡期間中に、主要心血管イベント(MACCE)が126例で発生した。Cox比例ハザードモデルにより、MACCEの予測因子としてハザード比(HR)を算出すると、AFが6.13(95%CI 3.07~12.21、P=0.001)、PPGで検出しループレコーダーで診断確定したAFが3.22(同1.00~10.33、P=0.049)、PPGによる異常検出が2.74(同1.25~6.00、P=0.012)といずれも有意なリスク上昇が認められた。
Bauer氏は、①リストウォッチ型またはリング型のスマートデバイスの方が継続的にスクリーニングしやすい、②研究に参加していることでAFに意識が向かいやすく、通常診療でAF診断率が高まった可能性がある-などと研究の限界を指摘。その上で、「スマートフォンによるスクリーニングは、特定の機種でなくても治療を要するAF検出に有用な可能性が示された」とまとめた。
(編集部)