再生医療においては、安全性や有効性が証明されていない高額な幹細胞治療などが自由診療として患者に提供され、それに伴う合併症・有害事象の発生、訴訟などの事例が散見され、世界的に問題視されている。こうした現況を危惧した京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)教授の藤田みさお氏らの研究グループは、日本において再生医療として提供されている幹細胞治療(以下、幹細胞治療)の実態を調査。安全性や有効性に疑問が残る幹細胞治療、科学的エビデンスが確立されていないがん免疫療法などが多数行われており、これらは再生医療等安全性確保法(再生医療法)の構造的な課題に起因する可能性があるとの結果をCell Stem Cell2022; 29:1294-1297)に発表した。

治療実用化のプロセスにおける基本的概念が未確立

 再生医療に限らず、医療は研究や臨床試験を通じて安全性と有効性が証明されて、初めて患者に提供されるものである。しかし、日本では医師と患者の合意があれば、安全性や有効性の確認が十分でない治療であっても自由診療の枠組みで提供することが可能であり、その実態は十分に把握されていない。

 2014年に制定された再生医療法では、自由診療であっても細胞を治療として患者に投与する場合、専門委員会による提供計画の承認や厚生労働省への届出など一定の条件を設けている。また2017年に同法の一部が改正され、「再生医療等を受ける者に対する説明文書及び同意文書」を厚生労働省の公式サイトに開示することが義務付けられた。

 しかし、安全性や有効性が確立されていない再生医療の提供に伴う有害事象、訴訟などの事例が散見される。そこで研究グループはこの文書を精査し、日本における幹細胞治療の実態と課題について検討した。

 2,377医療機関における3,467件の幹細胞治療のデータが収集された。分析の結果、国際幹細胞学会(ISSCR)のガイドラインが非難する、培養した幹細胞を患者に投与する治療、科学的エビデンスが確立されていないがん免疫療法などが多数含まれることが分かった。

 こうした状況は、再生医療法では研究開発から治療の実用化に至るプロセスにおいて、重要な基本的概念である①研究で安全性と有効性が証明された医療が治療になること、②研究と治療の定義および区別、③新規性が高い未確立医療技術と未検証の治療の区別-が明確にされていないという、構造的な課題に起因することが示唆された。

 今後の再生医療法改正においては、3つの基本的概念を明確にし、医療機関、医師および特定/認定再生医療等委員会などの関係者間で確実に共有できる内容とすることが望まれる。

法改正の実現、不確実な治療に対する謬見を正す

 研究グループは、今回の研究の意義について「安全性や有効性が疑わしい幹細胞治療が法律で禁止されていない非英語圏の日本における実態を報告した点にある」と指摘した上で、「日本において海外で問題視されている幹細胞治療の課題が広く認知されること、研究によって安全性と有効性が示された後、科学的な証明に基づいて治療が提供されるという考え方が浸透すること、合法だから安全で有効と誤解して治療を受ける患者を減らし、専門分野ごとに再生医療の科学的エビデンスが整理されることに期待している」と結論。「今後は、一般市民を対象としたアンケートにより再生医療に対する認識や誤解を明らかにし、研究・治療の区別が曖昧で誤解されやすい医療と法規制の課題についてさらに検討を進めたい」と付言している。

(小野寺尊允)