周産期予後リスクの上昇に関する高血糖の閾値は確立されていない。HbA1cは過去2〜3カ月の平均血糖値を示す性質から、経口ブドウ糖負荷試験で得られる種々の血糖値と比べ周産期予後リスクの予測能は低いとされる。しかし、日本における大規模全国出生コホート研究(エコチル調査)では妊娠24週未満のHbA1c値が高いほど周産期予後に悪影響を及ぼすことが示されている(Diabetes Res Clin Pract 2020; 169: 108377)。こうした中、マレーシア・Universiti MalayaのJesrine G. S. Hong氏らは、正産期のHbA1c上昇が帝王切開分娩の独立した予測因子であるとの前向き横断研究の結果をBMC Pregnancy Childbirth(2022; 22: 679)に報告した。
対象は正産期単胎妊婦1,000例
Hong氏らは、正産期のHbA1c値と帝王切開分娩および在胎不当過大(LGA)の関連を評価する目的で、2017年12月〜18年8月にUniversiti Malaya病院に分娩入院した18歳以上の正産期単胎妊婦1,000例を対象に前向き横断研究を実施した。入院時にHbA1c値を測定し、帝王切開分娩およびLGA児出生との関連を評価した。
全体のHbA1c中央値は5.3%〔四分位範囲(IQR)5.1〜5.6%〕。242例が妊娠中に糖尿病を発症、うち232例が妊娠糖尿病で、70例が血糖降下薬治療(メトホルミン54例、インスリン3例、メトホルミン+インスリン13例)を受けた。
経腟分娩は693例、帝王切開は307例で、誘発不成功による予定外分娩は272例、胎児死亡は2例、LGA児は99例だった。
HbA1c 1%が上昇するごとに帝王切開リスクは47%上昇
解析の結果、帝王切開分娩群のHbA1c中央値は5.4%(IQR 5.2〜5.7%)で経腟分娩群の5.3%(同5.1〜5.6%)に比べ有意に高かった(P<0.001)。LGA群〔HbA1c中央値5.4%(IQR 5.1〜5.6%)〕と非LGA群〔同5.3%(5.1〜5.6%)〕に有意差はなかった(P=0.17)。
粗解析で特定された有意な交絡因子〔妊娠中の糖尿病、分娩回数、民族、BMI、帝王切開の既往、分娩誘発、B群連鎖球菌(GBS)保有、出生体重〕を調整後もHbA1c値は帝王切開分娩の独立した予測因子として抽出され、正産期のHbA1c値1%上昇当たりの調整オッズ比(aOR)は1.47(95%CI 1.06〜2.06、P=0.023)、0.1%上昇当たりのaORは1.04(同1.01〜1.08)だった。妊娠中の糖尿病の有無別に見た事後解析では、非糖尿病群におけるHbA1c 1%上昇当たりの帝王切開分娩のaORは1.90(同1.24〜2.91、P=0.003)、糖尿病群のaORは0.84(同0.45〜1.59、P=0.600)だった。
LGAに関しては有意な交絡因子〔BMI、分娩前の貧血(ヘモグロビン11g/dL未満、GBS保有)〕を調整後もHbA1c値上昇による影響に有意差はなかった(HbA1c 1%上昇当たりのaOR 1.43、95%CI 0.93〜2.18、P=0.101)。妊娠中の糖尿病の有無別に見た事後解析では、HbA1c 1%上昇当たりのLGAリスクは非糖尿病群ではaOR 1.11(同0.64〜1.94、P=0.703)、糖尿病群ではaOR 2.35(同1.10〜5.03、P=0.027)だった。
以上から、Hong氏らは「一般的な妊婦集団における正産期のHbA1c値の上昇は、帝王切開分娩の独立した予測因子である」と結論。その上で「正産期のHbA1c上昇は、糖尿病の妊婦より非糖尿病の妊婦において帝王切開分娩リスクと関連していた。帝王切開分娩リスクが高い女性、例えば分娩誘発に失敗したなどの有害因子がある例、または帝王切開歴があり分娩方法を検討している例などにおける治療指針として、臨床的に有用である可能性がある」などと考察している。
(編集部)