米・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのSiwen Wang氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判定された3,193例を対象に前向きコホート研究を行い、感染前の心理的苦痛と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)回復後の4週間以上持続する後遺症(Long COVID)との関連を検討。その結果、SARS-CoV-2感染前に抑うつ・不安症状、COVID-19に関する心配、自覚的ストレスなどのメンタルヘルスの不調や孤独感がなかった者と比べ、これらを有していた患者ではLong COVIDの発症リスク、Long COVIDに伴う日常生活障害のリスクが高かったとJAMA Psychiatry2022年9月7日オンライン版)に発表した。

4割超がLong COVIDを発症、症状は疲労感が最多

 COVID-19では遷延する症状、すなわちLong COVIDを発症する患者が一定割合で存在する。重症のCOVID-19例でLong COVIDのリスクが高まることが知られているが、軽症例でもLong COVIDを発症する。現時点で決定的な発症因子は解明されておらず、予防法や治療法は確立されていない。

 研究の解析対象は、Nurses' Health StudyⅡ(NHSⅡ)、Nurses' Health Study 3(NHS3)、Growing Up Today Study(GUTS)の参加者のうち、2020年4月の調査時点でSARS-CoV-2未感染と回答し、その後19カ月の追跡期間中にSARS-CoV-2陽性判定を受けた3,193例(平均年齢55.3歳、女性96.4%)。

 陽性例の43.9%(1,403例、うち男性35例)がLong COVIDを発症したと回答し、最も高頻度の症状は疲労感(56.0%)、次いで嗅覚・味覚障害(44.6%)、息切れ(25.5%)、混乱/見当識障害/brain fog(脳の霧:24.5%)、記憶障害(21.8%)の順だった。

複数の苦痛あると約50%リスク上昇

 評価対象としたSARS-CoV-2感染前の全ての心理的苦痛に関して、「全くない」と回答した者に比べて「あり」と回答した者でLong COVIDのリスクが有意に高かった。

 患者背景、喫煙状況、BMI、併存疾患を調整後のLong COVID発症のリスク比(RR)は、probableの抑うつ症状〔Patient Health Questionnaire(PHQ-2)スコア3以上〕で1.32(95%CI 1.12~1.55)、probableの不安症状〔Generalized Anxiety Disorder scale(GAD-2)スコア3以上〕で1.42(同1.23~1.65)、COVID-19に関する心配(4段階で最も強い)で1.37(同1.17~1.61)、Perceived Stress Scale(PSS-4)で評価した自覚的ストレスの最高四分位群で1.46(同1.18~1.81)、UCLA Loneliness Scaleで評価した孤独感(3段階で最も強い)で1.32(同1.08~1.61、P=0.006)だった(孤独感以外は全てP<0.001)。

 感染前に複数の心理的苦痛を有していた者は、「全くない」者と比べて50%近くの有意なリスク上昇が認められた(RR 1.49、95%CI 1.23~1.80、P<0.001)。

 Long COVIDとこれらの心理的苦痛との関連は、COVID-19の確立された危険因子(年齢、喫煙、糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、喘息、がん、BMI)との関連より強かった。

Long COVIDの半数超で日常生活障害、苦痛でリスク増

 Long COVID発症者では、55.8%(783例)が、Long COVIDの諸症状に関連する日常生活障害があると回答。感染前の全ての心理的苦痛は日常生活障害のリスク上昇と関連しており、それぞれ最も強い苦痛がある者のRRは抑うつ症状で1.51(95%CI 1.23~1.85)、不安症状で1.44(同1.18~1.75)、COVID-19に関する心配で1.25(同1.01~1.54)、ストレスの自覚で1.38(同1.05~1.83)、孤独感で1.15(同0.89~1.49)だった。

 以上を踏まえ、Wang氏らは「SARS-CoV-2感染前の心理的苦痛は、感染後のLong COVID発症の危険因子である可能性が示唆された」と結論。「今後の研究で、心理的苦痛とLong COVIDを関連付ける生物学的メカニズムを解明し、苦痛を軽減する介入がLong COVIDの予防または治療に有用かどうかを検討すべき」と付言している。

(太田敦子)