閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、がんや静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子とされるが、一貫した知見は得られていない。スウェーデンの大規模コホート研究、フランスのコホート研究においてOSAとがん、VTEの関係を検討した結果、 OSAはがん、VTEのリスクを上昇させることが欧州呼吸器学会(ERS 2022、9月4~6日)で報告された。
低酸素血症は独立したがん関連因子
スウェーデン・Uppsala UniversityのAndreas Palm氏らは、同国の患者6万例超を対象にOSAとがんの関係について検討する大規模コホート研究を実施した。
2010年7月~18年3月に持続陽圧呼吸(CPAP)療法を開始したOSA患者6万2,811例を対象にSwedish National Cancer Registry、スウェーデン統計局などのデータからCPAP療法開始5年前までのデータを統合し、全がん種およびがん種別にOSA重症度との関係について検討。OSA重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)と3%酸素飽和度低下指数(ODI)を測定し評価した。
同氏らは、がんを発症したOSA患者2,093例(平均年齢65.3歳、BMI 30、女性29.8%)を抽出し、傾向スコアマッチング法を用いて身体測定値、併存疾患、社会経済状態、喫煙状況などをマッチングさせたがんを発症していないOSA患者2,093例と比較検討した。
その結果、がん発症群は非発症群に比べAHI〔32、四分位範囲(IQR)20~50 vs. 30、同19~45、P=0.002〕、ODIがいずれも有意に高かった(28、同17~46 vs. 26、同16~41、P<0.001)。
サブグループ解析の結果、ODIは非がん患者と比べ肺がんを有するOSA患者(27、IQR 16~43 vs. 38、同21~61、P=0.012)、前立腺がんを有するOSA患者(24、同16~39 vs. 28、同17~46、P=0.005)、悪性黒色腫を有するOSA患者(25、同14~41 vs. 32、同17~46、P=0.015)で有意に高かった。
以上から、同氏は「大規模コホート研究の結果、OSAに伴う間欠的低酸素血症はがんの独立した関連因子であることが示された。がん発症患者では非発症患者に比べOSAの重症度がやや高い傾向が認められた」と結論。その上で「未治療のOSAはがんの危険因子であることを考慮し、OSA患者を治療する際はがんの可能性も視野に入れる必要がある。ただし、今回の結果から、がんスクリーニングの対象を全OSA患者に広げることを正当化することも推奨することもできない」と付言した。
OSA重症度に伴いVTEリスク上昇
一方、フランス・Angers University HospitalのWojciech Trzepizur氏らは、2007年から同国の7施設でPays de la Loire Sleep Cohortに登録されている18歳以上のOSA患者を対象に、健康管理データと合わせて特発性VTEを発症したOSA患者を同定。Cox比例ハザードモデルを用いて、特発性VTEとAHI、夜間低酸素血症マーカー〔経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)90%未満の時間(T90)、ODI、低酸素負荷〕との関係を検討した。
中央値で6.3年(IQR 4.3~9.0年)の追跡期間中にOSA患者7,355例中104例が特発性 VTEを発症した。
特発性VTE発症群と非発症群では、AHIと全ての夜間低酸素血症マーカーに著明な差が見られた。しかし、全ての交絡因子を調整すると、T90のみが独立したVTE予測因子として抽出された〔ハザード比(HR)1.06、95%CI 1.01~1.02、P=0.02〕。
VTE発症リスクは、T90の第1三分位範囲(1%未満)に対し第3三分位範囲(6%超)で約2倍と最も高かった(HR 1.98、95%CI 1.05~3.74、P=0.02)
感度解析の結果、OSAとVTEの関係はCPAP療法が施行されていない患者で強かった。
以上から、同氏らは「AHIと夜間低酸素血症マーカーで評価したOSAの重症度が高いほど特発性VTE発症リスクが高まった。T90は特発性VTEの独立した危険因子であり、睡眠時間の6%超がSpO2 90%未満の場合、VTE発症リスクが2倍になった」と結論。その上で「CPAP療法のような適切なOSA治療がVTEリスクを低下させるかどうかを検証する必要がある」と指摘した。
(編集部)