ドイツ・University of Duisburg-EssenのAlexander Röth氏らは、日本を含む14カ国で登録された直近の輸血歴がない寒冷凝集素症(CAD)患者42例を対象に、抗補体モノクローナル抗体スチムリマブの安全性と有効性を検討する第Ⅲ相プラセボ対照ランダム比較試験(RCT)CADENZAを実施。スチムリマブは、輸血を必要とせずに溶血、貧血および疲労を軽減し、忍容性はおおむね良好との結果をBlood(2022; 140: 980-991)に報告した(関連記事「世界初の寒冷凝集素症薬など5種が承認」 )。

直近の輸血歴がある患者対象の単一群試験で有効性を確認  

 CADは、自己免疫性溶血性貧血の希少な一病型で、補体の古典経路の活性化を介して慢性溶血を来す。スチムリマブは、補体の古典経路のC1複合体セリンプロテアーゼ(C1s)を選択的に阻害する新規のヒト化免疫グロブリンG4(IgG4)モノクローナル抗体。直近の輸血歴があるCAD患者を対象とした第Ⅲ相非盲検単一群試験CARDINALでは、26週間のスチムリマブ投与は速やかに溶血を抑制した(関連記事「スチムリマブ、寒冷凝集素症への有効性示す」)。

直近の輸血歴のない42例が対象  

 CADENZA試験は、26週間の二重盲検RCT(パートA終了)、最低1年間の非盲検延長期間(パートB進行中)で構成される。今回報告されたパートAの対象は、2018年3月~20年9月に、欧米と日本の14カ国53施設で登録された直近6カ月以内に輸血歴のない成人CAD患者で、ヘモグロビン(Hb)値10g/dL以下、ビリルビン値上昇、症候性貧血などのCAD症状を1つ以上有する42例(年齢中央値66.0歳、46~88歳、女性が78.6%、アジア在住約10%)。スチムリマブ群(体重区分別用量:75kg未満6.5g、75kg以上7.5g)22例またはプラセボ群20例にランダムに割り付け、第0日、第7日、その後は隔週で静脈内投与した。  

 有効性の複合主要評価項目は、5~26週に輸血およびプロトコルで禁止されたCAD治療薬の投与を必要とせず、ベースラインから治療評価時(23、25、26週)の平均Hb値が1.5g/dL以上上昇した(レスポンダー基準)患者の割合とした。

 主要副次評価項目は、ベースラインから治療評価時点のHb値およびFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy(FACIT)疲労スコア(0~52点、高いほど疲労が軽減)の平均変化量とした。  

73%がレスポンダー基準を達成  

 スチムリマブ群の19例(86.4%)とプラセボ群の20例(100%)がパートAを完了し、パートBに移行した。ベースラインのスチムリマブ群とプラセボ群のHb値の平均±標準偏差(SD)はそれぞれ9.2±1.1g/dLと9.3±1.0g/dL、FACIT疲労スコアはそれぞれ31.7 ±12.8点と33.0±10.9点。疑い例を含むギルバート症候群4例(各群2例)を除くビリルビン値は、それぞれ41±27μmol/Lと36±12μmol/Lだった。  

 複合主要評価項目を達成したのは、プラセボ群の3例(15.0%、95%CI 3.2~37.9%)に対し、スチムリマブ群では16例(72.7%、同49.8~89.3%)、スチムリマブ群はプラセボ群に比べてレスポンダー基準の達成率が有意に高かった〔オッズ比(OR)15.9、95%CI 2.9~88.0、P<0.001〕。  

 全体として、スチムリマブ群ではHb値が速やかに上昇し、3週から治療評価時点まで平均11g/dL以上を維持した。治療評価時点のベースラインからのHb値の最小二乗(LS)平均変化量は、スチムリマブ群とプラセボ群でそれぞれ2.66g/dL(95%CI 2.0~3.22 g/dL)と0.09g/dL(同-0.50~0.68g/dL)、FACIT疲労スコアのLS平均変化量はそれぞれ10.8点(95%CI 7.45~14.22点)と1.9点(同-1.65~5.46点)で、スチムリマブ群で有意に改善した。

 また、スチムリマブ群では溶血が迅速に抑制され、1~3週以内に総ビリルビン平均値が正常化、26週まで正常範囲(5.1~20.5μmol/L)を維持した。

 薬力学的検討では、スチムリマブ群では1週目から補体の古典経路活性がほぼ完全に阻害され、それに伴いHb値、総ビリルビン値および疲労が改善した。

有害事象による治療中止は14%

 治療中に発生した有害事象(TEAE)が1件以上認められた患者は、スチムリマブ群が21例(95.5%)、プラセボ群が20例(100%)。このうち8例(36%)の計28件がスチムリマブ治療に、4例(20%)の計7件がプラセボ投与に関連すると判定された。頭痛(22.7% vs. 10.0%)、高血圧(22.7% vs. 0%)、鼻炎(18.2% vs. 0%)、レイノー現象(18.2% vs. 0%)および肢端チアノーゼ(13.6% vs. 0%)は、プラセボ群に比べてスチムリマブ群で頻度が高く、3例以上の群間差があった。

 スチムリマブ群では3例(13.6%)がTEAEのため早期にパートAを中止したが、プラセボ群ではなかった。重篤な有害事象(TESAE)は、スチムリマブ群の3例(13.6%)で4件、プラセボ群の1例(5.0%)で3件発生した。このうち、86日目に重度の脳静脈血栓症を発症した糖尿病の既往歴がある高齢患者1例が、スチムリマブ治療に関連すると判定。この患者はスチムリマブを一時的に中断し、抗血栓療法後88日目に回復した。死亡や髄膜炎感染症の報告はなかった。

疲労軽減による生活の質改善も

 以上の結果から、Röth氏らは「第Ⅲ相試験CADENZAのデータは、CAD患者に対する有効かつ忍容性の高い治療法としてのC1s標的阻害を支持している。スチムリマブは、CAD治療の重要な進歩となる可能性が示された」と結論している。

 同氏らは「CADでは、FACIT疲労スコアは5点以上の変化が臨床的に重要と推定されている。CADENZA試験では、スチムリマブはプラセボに比べて疲労を有意に改善し、ベースラインと治療評価時点の比較で10点以上のFACIT疲労スコアのLS平均変化量をもたらしており、生活の質を改善することが確認された」と付言している。

(坂田真子)