カナダ・Queen's UniversityのDaren K.Heyland氏らは、重度の熱傷患者1,200例を対象に退院までのグルタミン補給の有効性を評価する国際二重盲検ランダム比較試験(RCT)RE-ENERGIZEを実施。その結果、グルタミン補給により熱傷患者の入院期間は短縮しなかったとN Engl J Med2022年9月9日オンライン版)に報告した。

14カ国54施設のⅡ/Ⅲ度熱傷患者1,200例が対象

 グルタミンは重篤な傷害に伴う代謝およびストレス応答に対し有効とされている。しかし、熱傷患者やその他の重症患者を対象とした臨床試験では、グルタミン補給のベネフィットとリスクに関し相反する結果が示されており、一貫した効果は得られていなかった。

 そこでHeyland氏らは、重度の熱傷患者に対するグルタミン補給の有効性を検討するRE-ENERGIZEを実施した。

 対象は、2011年5月〜21年6月に14カ国54施設で登録したⅡ度/Ⅲ度の熱傷(18~39歳:体表面積の20%以上、吸入損傷併発の場合は15%以上、40~59歳:同15%以上、60歳以上:同10%以上)を負って皮膚移植を必要とし、入院から72時間以内の患者1,209例(平均熱傷範囲:体表面積の33%)。そのうち1,200例をグルタミンを経口投与する群(グルタミン群、596例)とプラセボ群(604例)にランダムに割り付け、0.5g/kg/日のグルタミンまたはプラセボを4時間ごとに栄養チューブで投与、または1日3~4回経口で投与した。投与は、最後の皮膚移植術後7日、集中治療室からの退室、入院後3月のいずれか最も早い時点まで継続した。

 主要評価項目は生存退院までの期間とし、データは90日で打ち切った。死亡を競合リスクとし、生存退院の部分分布ハザード比(SDHR)を算出した。副次評価項目は6月後の死亡率とした。事前に設定したサブグループ解析では、主要・副次評価項目について、年齢、体表面積に対する熱傷面積の割合、年齢と体表面積に対する熱傷面積の割合別に、グルタミンの効果を検討した。

熱傷管理の発展により単一の栄養補給が病態生理に影響しない可能性

 解析の結果、全体の平均治療期間は26日だった。生存退院までの期間の中央値はグルタミン群で40日〔四分位範囲(IQR)24~87日〕、プラセボ群で38日(同22~75日)と有意差は示されなかった〔生存退院のSDHR 0.91、95%CI 0.80~1.04、P=0.17〕。同様に6月後の死亡率はグルタミン群で17.2%、プラセボ群で16.2%と差がなかった(死亡のハザード比 1.06、95%CI 0.80~1.41)

 サブグループ解析においても、主要・副次評価項目に両群で差は認められなかった。重篤な有害事象についても両群で同様であり、差はなかった。

 以上からHeyland氏らは、重度の熱傷患者に対するグルタミン補給は退院までの期間を短縮せず、6カ月後の死亡率の有意な低減も示されなかったと結論。

 今回、グルタミンの効果が示された既報と異なる結果が示されたことについて同氏らは、過去の研究は30〜48例を対象とした小規模かつ単施設の試験でありグルタミンの効果が過大評価された可能性があること、この10年間で熱傷管理が進展し単一の栄養補給療法が根本的な病態生理過程に及ぼす影響は小さくなっていることが関係していると考察している。

(今手麻衣)