大腸がんの発症要因の1つに生殖細胞系列の病的バリアントが考えられるが、日本人大腸がん患者における大規模データは乏しく、病的バリアントの影響は明らかではない。理化学研究所(理研)生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの藤田征志氏らは、世界最大規模となる大腸がん患者を含む日本人集団3万6,000人超のDNAを解析し、日本人遺伝性大腸がんの原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴を明らかにした。
27の遺伝性腫瘍関連遺伝子を解析
藤田氏らは、全米総合がんネットワーク(NCCN)ガイドラインで検査が推奨されている12の遺伝子を含む計27の遺伝性腫瘍関連遺伝子を対象に、独自に開発したゲノム解析手法を用いてバイオバンク・ジャパンが収集した大腸がん患者群1万2,503例および対照群2万3,705例の血中DNAを解析。その結果、4,804の遺伝的バリアントが同定された。
これらの遺伝子バリアントを、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)および米国分子病理学協会(AMP)のガイドラインや疾患に関連するバリアントを検索できる国際的データベースであるClinVarに基づき、病的バリアントか否かを評価した。
その結果、397の遺伝的バリアントが病的バリアントと判定された。うち199(50.1%)はClinVarに登録されていない新規の病的バリアントだったことから、日本人に特異的なものである可能性が示唆された。
病的バリアント保有と大腸がん発症リスクが関連
同定した397の病的バリアントを保有する割合を患者群と対照群で比べたところ、対照群の1.6%に対して患者群では3.3%と、患者群では大腸がん発症リスクとの有意な関連が示された〔オッズ比(OR)2.2、95%CI 1.9〜2.5〕。遺伝子別に見ると、MSH2、MLH1、MSH6、APC、BRIP1、BRCA1、BRCA2、TP53が日本人の大腸がん発症に寄与していることが示された(表)。特にMSH2、APC、MSH6、MLH1の寄与が大きく、うち3遺伝子はミスマッチ修復遺伝子だった(MSH2、MSH6、MLH1)。BRIP1は、乳がんや卵巣がんとの関連が示唆されているものの、これまでに大腸がんとの関連は報告されていなかった。
表. 大腸がん原因遺伝子別の病的バリアント保有者と発症リスク
(理研プレスリリースより)
病的バリアント保有割合は、大腸がん診断時の年齢が下がるにつれて有意な上昇が見られ、保有患者の診断年齢は、非保有患者に比べて平均で3.0歳若かった。さらに非保有患者と比べ、保有患者では大腸がん、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がんの家族歴や胃がん、子宮内膜がん、卵巣がんの既往歴が有意に高率だった。
さらに、リンチ症候群の主な要因となるミスマッチ修復遺伝子におけるコピー数多型(CNV)を検証した結果、3遺伝子(EPCAM-MSH2、MLH1、APC)に30のCNVが検出され、最終的に18のCNVが病的と評価された。その結果、日本人大腸がん患者の3.5%が病的バリアントまたはCNVを有することが示唆された。なお、今回の結果はClin Gastroenterol Hepatol(2022; 20: 2132-2141. e9)に詳報されている。
(編集部)