進行した慢性腎臓病(CKD)患者や血液透析患者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンを接種しても十分な中和抗体を獲得しにくいとされる。横浜市立大学循環器・腎臓・高血圧内科学教室の金井大輔氏らは、ファイザー製SARS-CoV-2のmRNAワクチン(トジナメラン)3回目接種後のスパイク蛋白質に対する抗体価を血液透析患者と健康人で比較。その結果、血液透析患者でもワクチン3回目接種1カ月後の抗スパイク蛋白質抗体価が2回目接種後に比べ大幅に上昇し、健康人と同等レベルに達したとKidney Int Rep(2022年9月10日オンライン版)に発表した。
透析患者では、ワクチン2回接種後の抗体価は健康人の3分の1
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化や死亡リスクが高い進行CKD患者および血液透析患者には、ワクチン接種が強く推奨されている。しかし、これらの患者では尿毒素の影響で免疫力が低下し、ワクチンに対する免疫応答が減弱しており、十分な中和抗体を獲得しにくいことが報告されている。金井氏らの先行研究でも、血液透析患者がワクチン2回接種後に獲得できる中和抗体価は、健康人の3分の1程度と有意に低値だった(Clin Exp Nephrol 2022年6月25日オンライン版)。しかし、血液透析患者に対する3回目接種の有効性を検討した研究はほとんどない。
そこで同氏らは今回、トジナメラン2回目接種から3回目接種1カ月後までの抗スパイク蛋白質抗体価の経時的な推移を血液透析患者と健康人で比較した。また、ワクチン2回目接種に対する反応性で①高反応(7,021AU/mL以上)、②低反応(50AU/mL以上7,021AU/mL未満)、③無反応(50AU/mL未満)―の3グループに分け、3回目接種後の抗体価の上昇割合を3グループで比較した。
解析対象は、透析施設に通院中の血液透析患者(透析群350例)と医療スタッフ(健康群130例)。全例にワクチン2、3回目接種後、抗スパイク蛋白質抗体検査を実施した。
3回目接種1カ月後の抗体価に透析群、健康群で有意差なし
検討の結果、2回目接種6カ月後の抗体価中央値は、健康群の803.8AU/mL〔四分位範囲(IQR)498.4~1,342.7AU/mL〕に対し、透析群では312.8AU/mL(同157.9~613.6AU/mL)と有意に低値だった(P<0.001)。
しかし、3回目接種1カ月後の抗体価中央値は、健康群の2万AU/mL(IQR 1万2,750~3万2,250AU/mL)に対し、透析群では2万4,500AU/mL(同1万1,000~4万AU/mL)と群間差はなかった。
免疫応答に『天井』が存在か
透析群における3回目接種後の抗体価の上昇割合は、高反応グループの3.3倍(IQR 2.4~6.1倍)に対し、低反応グループでは10.2倍(同5.7~19.2倍)、無反応グループでは90.8倍(同27.5~174.1倍)と有意に高かった(全てP<0.001)。健康群の抗体価上昇割合は、高反応グループの2.0倍(同1.4~3.5倍)に対し、低反応グループでは3.7倍(同2.7~6.0倍)と有意に高かった(P<0.001)。
以上から、金井氏らは「血液透析患者は健康人と比べSARS-CoV-2ワクチンに対する免疫応答が不良で、獲得できる中和抗体価が低いと考えられていたが、血液透析患者でもワクチンを3回接種することで、抗体価は健康人と同等レベルまで上昇することが示された」と結論。また、ワクチン2回目接種で高反応を示したグループは3回目接種による抗体価の上昇割合が最小であった点について、「ワクチンに対する免疫応答に『天井』が存在することが示唆された」と指摘し、「今後も研究を重ね、血液透析患者に対するSARS-CoV-2ワクチンの接種回数、接種間隔、接種時期などに関するより適切なプロトコルの作成に寄与したい」と展望している。
(比企野綾子)