山形大学大学院医療政策学講座講師の池田登顕氏らは、反実仮想モデルという手法を用いて、4年間のBMIの変化が6年後の腰痛に及ぼす影響を検討。その結果、BMIが4年間に5%上昇すると腰痛の発症リスクは11%上昇すること、握力が弱い集団でのリスク上昇は17%とさらに影響力が大きいことが示されたとJ Gerontol A Biol Sci Med Sci2022年9月8日オンライン版)に発表した。

反実仮想モデルで6年後の腰痛リスクを算出

 体重の増加は腰痛の発生要因、体重の減少は腰痛の緩和要因と考えられている。肥満は死亡などの健康リスクを高めるが、全身の筋力の指標とされる握力が強い高齢者では、肥満があっても死亡リスクが低いことが報告されている。しかし、肥満状態の変化が高齢者の腰痛に及ぼす影響や握力との関連については詳しく分かっていない。

 そこで池田氏らは、4年間のBMIの変化が腰痛リスクに及ぼす影響に加え、握力の関与についても検証した。

 解析対象は、英国加齢縦断研究(ELSA)に参加した6,868例で、追跡期間は6年間。腰痛の調査は、ベースライン時、4年後、6年後に実施し、痛みの程度を10段階(10が最強度)で評価して、5以上を「腰痛あり」と定義した。6年後の腰痛リスクは、反実仮想モデルという手法を用いてBMIを4年間任意の範囲(5/10/15/20/25%上昇、5/10/15/20/25%低下の計10通り)で増減させて算出した仮想データと実際のデータを比較した。なお、BMIの上昇はBMI 18.5以上の者、BMIの低下はBMI 25.0以上の者を対象に検討した。

 ベースライン時の性・人種・最終学歴・年齢・所得・婚姻状態・慢性疾患の有無・関節炎の有無・握力・低/中/高強度の運動習慣・うつ状態・腰痛の有無、4年後の所得・婚姻状態・慢性疾患の有無・関節炎の有無・握力・低/中/高強度の運動習慣・うつ状態・腰痛の有無を調整して解析を行った。

BMI 25.0以上では10%のBMI低下が腰痛回避の目安

 その結果、BMIが4年間に5%上昇すると、腰痛の発症リスクは11%有意に上昇した〔リスク比(RR) 1.11、95%CI 1.04~1.19、P=0.002〕。

 握力の強度で層別化して解析したところ、弱握力群ではBMIが4年間に5%上昇すると、腰痛の発症リスクは17%上昇(RR 1.17、95%CI 1.05~1.31)したが、強握力群では有意な関連は認められず(同1.04、0.91~1.20)、BMIと腰痛との関連は握力が弱い集団において著明であることが示された。

 一方、BMIが4年間に10%低下すると、腰痛の発症リスクが18%有意に低下した(RR 0.82、95%CI 0.73~0.92、P=0.001)。ただし、BMIの低下割合が大きくなっても、それに伴う腰痛リスクの大幅な低下は認められなかった(RR 0.75~0.82)。

 以上から、池田氏は「BMIの上昇で腰痛リスクが高まり、その影響は握力が弱い集団において著明である。したがって、特に握力が弱い集団に対しては、肥満の予防や改善といった対策が重要だ」と結論。また、「BMIの低下で腰痛リスクは下がるが、BMIの低下割合が大きくなっても腰痛リスクの大幅な低下には至らなかったことから、BMI 25.0以上の過体重および肥満者に対しては、10%のBMI低下が腰痛回避の目安となることが示唆された」と付言している。

(比企野綾子)