米・ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)によると、全世界における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する推定死亡者数は1,720万人とされている。Lancet誌のCOVID-19委員会は新たにレポートを作成し、この驚異的な死亡者数について「重大な悲劇であり、COVID-19対策の大規模な世界的失敗」と表現。レポートではCOVID-19に対する包括的な調査、分析、対応策を示し、COVID-19パンデミックの終息と次なるパンデミックへの対策として3分野11項目から成る勧告を提示している。
10の要因によりパンデミック制御に失敗
レポートでは「多くの政府が組織の合理性と透明性に関する基本的な規範を遵守できず、また多くの人が(しばしば誤った情報に影響されて)基本的な公衆衛生上の予防策を軽視し、世界の主要国はパンデミックを制御するための協力に失敗した」としている。
その具体例として、「COVID-19パンデミック発生時の適時な通知の欠如」「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重要な空気感染経路の認識や、拡散抑制のための世界的、国家的な適切な措置の遅延」「抑圧戦略における各国間の調整不足」「各国政府における経済的・社会的影響を踏まえたパンデミックの制御に対するベストプラクティスの欠如」「低・中所得国に対する資金提供の不足」「防護具、診断薬、医薬品、医療機器、ワクチンなどの世界的供給と公平な分配の欠如(特に低・中所得国)」「感染、死亡、ウイルス変異、保健システム、間接的な健康被害などに関する適時、正確かつ体系的な情報の欠如」「バイオセーフティに関する規制の不足」「組織的なインフォデミックに対する敗北」「脆弱性を有する人々を保護するための世界的、国家的なセーフティネットの欠如」の10項目を挙げている。
多国間主義の強化を呼びかけ
COVID-19パンデミックの終息と次なるパンデミックへの対策は①現在のパンデミックを制御および理解するための実際的な手順、②将来のパンデミックに対する防御体制を強化するために必要な投資、③多国間主義を強化する野心的な提案―から成る。
①については「世界的、国家的なワクチン接種戦略の確立」「SARS-CoV-2の起源に対する調査を強化」、②に関しては「国家保健システムの強化、プライマリヘルスケアと公衆衛生への増資」「国家的なパンデミック対策計画」「持続可能な開発および『Good Health and Well-Being※』復興計画のための資金調達」から成る。
③では「新興感染症対策の主導機関として世界保健機関(WHO)の維持」「WHOのガバナンス改革」「グローバル・パンデミック協定の確立と国際保健規則の強化」「パンデミック予防のための規制」「低・中所得国の金融、研究開発、生産能力に対するG20の支援」「『Good Health and Well-Being』、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、機能的な保健システムを確保するための新たな世界保健基金」を挙げている。
その上で、「政治、文化、制度、財政など、全ての重要な側面で多国間主義を強化すべき。特に裕福かつ強大な国に対し、国際連合への活動の支持・維持・強化を呼びかける」と結論している。詳細はLancet(2022年9月14日オンライン版)に報告されている。
(編集部)
- ※ 持続可能な開発目標(SDGs)における17の目標の1つ。「全ての人に健康と福祉を」