日本におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種率は、2013年6月の厚生労働省による積極的勧奨の一時差し控えの影響で激減し、2022年4月の勧奨再開を受け接種率の向上が喫緊の課題となっている。大阪大学産婦人科の八木麻未氏らは、接種対象年齢の娘を持つ母親を対象に、娘のHPVワクチン接種に関する意向などについてインターネット調査を実施した。その結果、娘の親友がHPVワクチンを接種した場合、自身の娘の接種に前向きになるという「親友効果」が接種促進の有望策になりうると、Int J Clin Oncol (2022年9月3日オンライン版)に発表した。(関連記事「同調効果でHPVワクチン普及の可能性」)

接種率7割の世代、激減した世代、定期接種対象でも低い世代で検討

 八木氏らは、2021年3月、10〜29歳の娘を持つ母親を対象にインターネット調査を実施。娘の誕生年度でグループ1(1994〜99年度生まれ:定期接種としての積極的勧奨により接種率が約70%あった世代)、グループ2(2000〜03年度生まれ:積極的勧奨が差し控えられ接種率が急激に低下し、以降も接種率が低下したままの世代)、グループ3(2004〜08年度生まれ:定期接種の対象とされていたが、接種率がまだ極めて低かった世代)に分けて検討した。接種対象となる娘が複数いる場合は、長女に関する回答のみを収集した。

「娘の親友が先に接種した」ことは接種率低下世代の母親を前向きに

 グループ 1、2、3の回答者はそれぞれ532、514、530人、年齢の中央値は53、48、44歳で、グループ3は年齢の中央値が有意に若く(P<0.05)、働く母親の割合が最も多かった(69.2%)。

 母親の健康に関する情報の収集手段は、インターネット検索やSNS、ネットニュースがいずれのグループも過半数を占めた。

 ワクチン接種率が低下した2000年以降に生まれた娘の母親であるグループ2および3を対象に、予防接種に前向きであった母親がどのような状況にあったかを分析すると、「状況D:娘の親友が娘より先にワクチン接種を受けた」が母親にHPVワクチン接種を最も前向きに考えさせ(グループ2:41.6%、グループ3:48.5%、P=0.029)、「状況E:自治体からワクチン接種を推奨する通知を受け取った」(グループ2:40.5%、グループ3:47.0%、P=0.069)と同等またはそれ以上のプラス効果があった。

 同氏らは「娘の親友からのワクチン情報の信頼性は主観的であり、自治体からの情報ほど客観的ではないにもかかわらず、母親を接種に前向きにさせる上では強い影響力があった。この『親友効果』は『集団心理』によるものであり、主に同僚、隣人、または他の人の行動に基づいて決定を下す傾向がある人々の特徴的な行動を指していると考えられる。日本における現在のHPV ワクチン接種率の低さは、日本社会の『集団心理』に非常に望ましくない悪影響を及ぼしている。しかし、そのような負の状況下でも『隣人に対する集団心理』は、以前のマイナスを逆転させる可能性があることが示唆された」という。

「娘の一般的な予防接種に不安がない」「娘が子宮頸がんになる心配」は母親の意思に影響する独立因子

 ロジスティック回帰分析により、「状況A:娘の同級生の60〜80%が既にワクチン接種を受けた」「状況B:医師がワクチン接種を勧めた」「状況D:娘の親友が娘より先にワクチン接種を受けた」「状況E:自治体からワクチン接種を推奨する通知を受け取った」という特定の状況下で、母親が娘にワクチン接種を受けさせる意思に影響を与える要因を調べた。その結果、「娘の一般的な予防接種について不安がない」(オッズ比:状況E 2.04、状況B 1.79、状況D 1.97、状況A 1.55)、「娘が子宮頸がんになるのではないかと心配している」(オッズ比:状況E 2.18、状況B 2.32、状況D 2.42、状況A 2.46)がHPVワクチン接種を前向きに考える独立因子として抽出された。

「政府によるHPVワクチン接種の積極的勧奨が2022年4月に再開された。重要な点は、無料ワクチン接種の対象年齢を超えた女子に向けた『キャッチアップワクチン接種』のための政府主導のプログラムが始動したことである。既にワクチンを接種した女性が親しい友人に接種を勧めれば、『親友効果』によって娘への接種をためらっている母親にも良いニュースが広がるだろう。HPVワクチンの接種を再び社会的規範に位置付けられれば、『社会的な集団心理』がワクチン接種のさらなる改善を促進する可能性がある」と八木氏らは締めくくっている。

宇佐美陽子