スウェーデン・Umea UniversityのAnna Jonsson Holmdahl氏らは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)による治療を開始した左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(HFrEF)患者572例を対象に後ろ向きコホート研究を実施。リアルワールドでのMRA使用実態を調査した結果、約半数がMRAを中止しており、欧州心臓病学会(ESC)の心不全ガイドライン(GL)が推奨する中止基準まで推算糸球体濾過量(eGFR)や血清カリウム(K)値が増悪していない例が多かったことを、Open Heart(2022; 9: e002022)に報告した。MRA中止の理由として、投与中に必要とされる患者のモニタリングや検査の実施率が低い可能性を挙げている。
中止例の併存疾患と全死亡リスクが増加
MRAはHFrEFの標準治療薬として用いられているが、以前の観察研究では治療中止した割合が30〜47%に上っており、服薬中止率が高いといった指摘がある。そこで、今回、Jonsson Holmdahl氏らはMRA中止の頻度、動機、予測因子、転帰を評価することを目的に後ろ向きコホート研究を行った。
解析対象は、2010~18年にUmea University HospitalでHFrEFと診断されMRAによる治療を開始した患者572例。MRA継続群(275例)に比べてMRA中止群(297例)では女性の割合が多く(26% vs. 36%、P=0.008)、高齢で(72±11歳 vs. 77±12歳、P<0.001)、eGFRが低かった(59±17mL/分/1.73m2 vs. 50±19mL/分/1.73m2、P<0.001)。
また、MRA中止群ではCharlson Comorbidity Index(CCI)合計スコアが高く(3.8±1.9 vs. 4.8±2.4、P<0.001)、中等度~重度の慢性腎臓病(52% vs. 68%、P<0.001)、脳血管疾患(18% vs. 29%、P=0.002)、末梢血管疾患(4% vs. 10%、P=0.005)、白血病/悪性リンパ腫(2% vs. 5%、P=0.047)、転移がん(1% vs. 5%、P=0.004)を合併する割合が高かった。
平均837日(±705日)の追跡期間における死亡は、MRA継続群で22%、MRA中止群で41%だった。MRAの中止は全死亡の調整後リスク上昇に関連していた(ハザード比1.477、95%CI 1.065~2.047、P=0.019)。一方、全死亡リスク上昇と血清K値(同0.810、0.588~1.114、P=0.195)およびeGFR(同0.991、0.980~1.001、P=0.076)との関連は認められなかった。
eGFR低下より血清K値上昇が中止の有力な予測因子
多変量ロジスティック回帰分析の結果、MRA中止の有意な予測因子は血清K値上昇〔オッズ比(OR)2.052、95%CI 1.379~3.053、P<0.001)、eGFR低下(同0.966、0.953~0.978、P<0.001)、収縮期血圧低下(同0.988、0.977~0.999、P=0.027)、CCIスコア上昇(同1.218、1.088~1.364、P=0.001)、LVEF上昇(同1.050、1.025~1.077、P<0.001)だった。
一方、高齢(1.014、95%CI 0.989~1.039、P=0.268)および女性(同0.995、0.618~1.600、P=0.983)とMRA中止には関連が認められなかった。
また、GLの中止基準を満たした患者を除外後の解析では、eGFRはMRA中止の有意な予測因子ではなくなった(OR 0.990、95%CI 0.970~1.011、P=0.346)。この結果について、Jonsson Holmdahl氏らは「リアルワールドにおいては、血清K値上昇がeGFR低下より有力なMRA中止の予測因子であると考えられる」との見解を示している。
血清K値がGL推奨値を満たす中止例はわずか14%
MRA中止の理由として最も多かったのは腎機能不全(33%)で、次いで血清K値上昇(24%)、低血圧(19%)、患者が自己申告した副作用(7%)の順だった。コンプライアンス不良も6%に上った。
ESCの心不全GLでは、MRA使用基準として「eGFRが30mL/分/1.73m2未満または血清K値が5.5mEg/L超でMRAを半量投与とし、eGFRが20mL/分/1.73m2未満または血清K値が6.0mEg/L超(重度の高K血症)でMRAの投与を中止する」ことを推奨している。しかし、腎機能不全によるMRA中止例のうちeGFRが30mL/分/1.73m2未満だった割合は56%、血清K値上昇による中止例のうち5.5mEg/L超は32%、6.0mEg/L超は14%にすぎなかった。
本来MRAの半量投与が推奨される血清K値5.5mEg/L超で中止例が多かった理由として、Jonsson Holmdahl氏らは「半数で腎機能が低下していたことに起因する可能性がある」としている。MRAの投与中止時に重篤な高K血症を発症していたのは3%のみだった。
GLのMRA使用基準を満たさない中止例が多い一因として、同氏らは「副作用のリスクが高い患者におけるフォローアップや検査値のモニタリングの不足がある」と考察。その上で「GLではMRAの服用開始後に腎機能および血中電解質濃度の厳密なモニタリングを推奨しているが、リアルワールドにおける観察研究からGL遵守率が低いことが示された」と問題を指摘している。
(太田敦子)