呼吸器領域における人工知能(AI)アプリの応用の有用性に関する報告が欧州呼吸器学会(ERS 2022、9月4~6日)でなされた。スマートフォンアプリにAI技術を活用することで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の検出や慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪の予測が可能になるという。
声の変化でCOVID-19患者を検出
COVID-19では通常、上気道と声帯に炎症が生じるため、患者の声に変化が生じる。オランダ・Maastricht UniversityのWafaa Aljbawi氏らは、COVID-19患者の声の変化を患者検出に利用するためにAIを用いた音声解析モデルを開発した。
まず参加者のスマートフォンに英・University of Cambridgeが作成したCOVID-19 Sounds Appをインストールしてもらい、人口統計学的属性、病歴、喫煙状況などの基礎情報および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査の結果、COVID-19入院の有無、症状の入力を依頼。その上で呼吸器音(咳3回、口からの深呼吸3~5回、短文の音読3回)を録音してもらった。
同氏らは1年間に、参加者4,352例(うち308例がSARS-CoV-2検査陽性)の音声サンプル893件を収集した。参加者の平均年齢は46歳(範囲9.5~90歳)、男性503例、女性385例、非喫煙者593例。症状として、乾性咳、嗅覚・味覚喪失、咽頭痛、湿性咳、呼吸困難、筋肉痛、頭痛などが報告された。
音声分析技術メルスペクトログラムを用いて、参加者の音声の特徴を特定。音声からCOVID-19の有無を判定するための音声解析モデルである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルおよび長・短期記憶 (LSTM)モデルの判定能を、Logistic Regression(LR)モデルおよびSupport Vector Machine(SVM)モデルと比較した。
LRモデルとSVMモデルは、患者の基礎情報、病歴、喫煙状況、入院状況および症状を用いて学習させた。
今回、事前学習済みのCNNであるResNet50 CNNを用いてモデルは音声データに潜在する特徴を抽出し、画像として視覚化させた。
LSTMモデルは回帰型ニューラルネットワーク(RNN)の進化系で、録音された音声シグナルからメル周波数ケプストラム係数(MFCC)を抽出し、LSTMモデルの学習に用いた。
メルスペクトログラムで解析し、音声データからCOVID-19患者を検出するディープラーニング分類モデルを開発した。
検討の結果、LSTMモデルの全体の正確度は89%と他のモデルと比べて最も高く、感度は89%、特異度は83%だった。
Aljbawi氏は「SARS-CoV-2に対するラテラルフロー抗原検査の感度は56%だが、特異度は99.5%で、われわれが今回評価したモデルと比べ偽陰性の割合が高い。われわれのAIを用いたLSTMモデルではSARS-CoV-2陽性者100例中11例を見逃すのに対し、ラテラルフロー抗原検査では100例中44例を見逃す」と説明した。
一方、特異度が高いラテラルフロー抗原検査は100例中1例が偽陽性となるのに対し、LSTMモデルでは100例中17例が偽陽性となる。しかし、LSTMモデルで陽性となった場合は、PCR検査を受けるように勧めるとよいと説明した。
以上から、同氏らは「AIを用いたディープラーニングによりわずかな声の変化を検出し、COVID-19患者を判定できるアプリを開発できた。既存の検査に加えてこの音声解析モデルを使用することで、迅速な診断と追跡が可能になる」と述べた。
COPD急性増悪が予測可能
一方、COPDの急性増悪は転帰不良で入院リスクを上昇させるが、早期発見・治療により改善できる。英・University of BristolのHenry Glyde氏らは、COPD自己管理アプリmyCOPDにAI技術活用することでCOPDの急性増悪が予測できるかどうかを検討した。
2016年にCOPD患者の自己管理のため専門医によって開発されたアプリmyCOPDは、クラウド上で双方向のサービスが受けられ、英国保健サービス(NHS)から初めて承認された。これまでに1万5,000例超が使用している。同氏らは、myCOPDにAI技術活用することで、将来の予防的介入のためCOPD増悪を予測することを目的として研究を行っている。
同氏らは、2017年8月~21年12月にmyCOPDに入力された183例の記録4万5,636件(安定期4万5,007件、増悪期629件)を収集。COPD増悪のデータには、患者のCOPD増悪自己申告の1~8日前に入力したCOPD評価テスト(CAT)スコア、症状スコア、COPD重症度、COPD増悪頻度などを用いた。AIモデルにはデータの70%を用いて学習させ、残り30%を用いて検証した。
患者は数カ月から数年にわたりアプリを毎週使用している頻用者で、症状やその他の健康情報、薬の記録、注意喚起の設定、最新の健康情報、生活習慣情報へのアクセスなどに利用していた。一方、医師はダッシュボードからデータにアクセスしてデータを監視し、共同管理、遠隔モニタリングができる。
最新のAIモデルの感度は32%、特異度は95%だという。同氏は「最新のモデルは、COPDの増悪が生じにくい期間を予測するのに有効で、不必要な治療を回避する可能性がある。一方、増悪の発生直前に予測するにはあまり有効でない。今後の研究では感度を上げ、増悪直前に予測できるよう改良していきたい」と述べた。
(編集部)