高齢者の大腿骨近位部骨折に対する手術後のせん妄は一般的な合併症である。尿酸には抗酸化作用があり、さまざまな神経変性疾患に対して保護的に働くことから、中国・Qilu Hospital of Shandong UniversityのLin Xu氏らは、術前の尿酸値と術後せん妄との関連を検討する後ろ向き症例対照研究を実施。術前の血清尿酸低値が術後せん妄の独立した危険因子であるとの結果をBMC Anesthesiol2022; 22: 282)に報告した。

年齢、性、麻酔の種類をマッチングして検討

 Xu氏らは、Qilu Hospitalの電子カルテに基づき2020年5月から1年間に大腿骨近位部骨折の選択的手術を受けた65歳以上の患者データを抽出。尿酸値に影響を与える疾患や薬剤、幻覚リスクがある薬剤の使用者を除外し、組み入れ基準に合致した317例を術後せん妄と診断された患者(症例群)と術後せん妄非発症患者(対照群)に分類。年齢、性、麻酔の種類をマッチングさせた各群48例で、術前血清尿酸値と術後せん妄との関連を多変量解析により評価した。術前血清尿酸値はlog10を用いた。

 術後せん妄を来した患者は317例中50例(15.8%)だった。両群の主な患者背景は女性が40例(83.3%)、年齢中央値は86.5歳、脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔の使用者は40例(83.33%)だった。

脳血管疾患既往、NLRも独立した危険因子

 単変量解析の結果、術後せん妄と関連する因子として、脳血管疾患の既往(症例群31.25% vs. 対照群12.50%、P=0.039)、log術前血清尿酸値(2.33±0.16 vs. 2.42±0.13、P=0.015)、好中球/リンパ球比〔NLR:5.24、四分位範囲(IQR)3.27~8.34 vs. 3.94、2.70~5.30、P=0.007〕が抽出された。

 多変量ロジスティック回帰分析の結果、術後せん妄リスクの上昇に関連していたのは、log術前血清尿酸低値(調整オッズ比0.028、95%CI 0.001~0.844、P=0.040)、NLR高値(同1.314、1.053~1.638、P=0.015)、手術時間の延長(同1.034、1.004~1.065、P=0.024)だった。

 入院期間は、対照群と比べ症例群で有意に長かった(8.27日、IQR 7.0~9.0日 vs. 10.90日、8.0~12.0日、P<0.001)が、肺炎と血栓症の発生率に両群で有意差はなかった。

 Xu氏らは「疫学研究において、尿酸値と複数の神経変性疾患との間に逆相関が示されているが、血清尿酸値と術後せん妄との関連はこれまで検討されていなかった」と指摘した上で、「高齢者の大腿骨近位部骨折手術において術前の血清尿酸低値は、術後せん妄の独立した危険因子の可能性がある」と結論。ただし「術前の血清尿酸値が術後せん妄の予測因子となるか否かを特定するには、大規模な前向き研究が必要である」と付言している。

(小路浩史)