月経中の女性では、手術や月経による出血増加への懸念から待機手術がキャンセルされることがある。インド・AIIMS Cardiothoracic CentreのDevishree Das氏らは、月経時と非月経時の心臓手術における術中出血量および経血量を比較した結果をAnn Card Anaesth (2022; 25: 311-317)に報告した。

月経は待機手術の相対的禁忌と考える医師も

 待機手術のキャンセル原因を評価した先行研究では、男性に比べ女性のキャンセル率が高く、その多くは月経が理由であると報告されている。Das氏らの施設では、女性患者の月経による心臓手術のキャンセル率は10〜15%で、衛生環境の悪化、凝固系の機能障害、術後の嘔気・嘔吐、疼痛などに関連する全身状態の把握が難しくなり、術後合併症の発見に支障を来す可能性があるとの理由から、医療者の間では「月経は待機手術の相対的禁忌」との考えがあるという。しかしながら、月経中の女性を対象とした心臓外科手術における術中出血および月経出血に関する報告は限られている。

 そこで同氏らは、月経中に心臓手術を受けた女性を対象に術中出血量および術前と周術期の経血量を検討する目的で前向きマッチド症例対照研究を実施した。

 対象は、同氏らの三次医療紹介型心臓病センターにおいて心臓手術を受けた20〜40歳でASA分類Ⅱ〜Ⅲ、規則的な月経周期の女性。月経時に手術を受けた月経群25例と月経周期などを含む患者背景および手術の種類などをマッチングした非月経時に手術を受けた非月経群25例を比較した。月経群では事前に月経質問票に従い月経周期を評価し、婦人科医の協力の下、経血量に関するカウンセリングと教育を行った後、月経ピクトグラム(生理用ナプキンなどへの経血の付着状態を図示し経血量を把握する指標)にのっとって術前の月経周期と経血量に関する患者の回答を評価した。全例が月経予定日前日に入院し、月経開始後最も早い時期に手術を行った。術中出血量はドレーン排出量、血液および血液製剤の使用量、ヘマトクリット値(推定値)で評価した。月経ピクトグラムは事前に主治医と看護師に説明、経血量については術後の総経血量と月経周期の長さで主治医と看護師が評価し治験責任医師がクロスチェックした。ただし、抜管後は患者が経血量を推定し、治験責任医師がクロスチェックした。

月経の有無で術中出血量に有意差なし

 検討の結果、術中出血量は月経群で245.6±120.1mL(範囲80〜330mL)、非月経群で243.6±129.9mL(同150〜340mL)と有意差は見られなかった(P=0.83)。術後の輸血必要量も両群で同等だった。

 月経群における総経血量は術前周期で36.8±4.8mL(範囲30〜48mL)、周術期で37.7±5.0mL(同30〜40mL)だった。月経期間は術前4.2±0.6日、周術期4.4±0.6日で、経血量、月経期間ともに有意差はなかった。

 月経群のうち14例は大動脈弁置換術、僧帽弁置換術、二重弁置換術、僧帽弁修復術などの施行後にワルファリンによる抗凝固療法を要した。それらの患者は経血に関して「血液の薄さ」と「血塊の排出の減少」を自発的に報告したものの、月経期間は術前の周期と同等であった。

 以上から、Das氏らは「月経中に心臓手術を受けても、術中出血量や経血量は増加しないと考えられた。この結果は、『月経中の手術は過剰な出血を伴う』という古くからの格言を払拭するもので、月経を心臓手術を延期する正当な理由と見なすべきではない」と結論している。

編集部