新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下では、エアロゾル化したウイルス粒子が患者から医療者に伝播するリスクが認識されたため、個人用防護具(PPE)や麻酔手技の変更などエアロゾル予防策が広く講じられている。英・Guy's and St. Thomas' NHS Foundation TrustのThomas Potter氏らは、全身麻酔患者における気道合併症の発生率、合併症と医療者が講じるエアロゾル予防策との関連を検討する多施設前向きコホート研究を実施。解析の結果、麻酔科医がN95に相当するフィルター付きフェイスピース(FFP)2またはFFP3マスクを使用すると、患者の気道合併症リスクが有意に上昇したとAnaesthesia2022年9月7日オンライン版)に発表した。

70施設で全身麻酔を受けた5,905例を解析

 エアロゾル予防策は周術期の患者における気道合併症のリスクとなる可能性があるが、シミュレーション研究以外では評価されていない。そこでPotter氏らは、待機的または緊急の全身麻酔患者における気道合併症の発生率、合併症とエアロゾル予防策との関連を検討した。

 対象は、英国内の医療機関70施設で2021年11月の連続した4日間に待機的または緊急処置のため全身麻酔を受けた成人5,905例。PCRまたは迅速抗原検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性となった者、COVID-19の主症状を少なくとも1つ呈する者、濃厚接触者をSARS-CoV-2陽性例とした。

 エアロゾル予防策として、PPE(眼、呼吸、体の保護具、手袋)の使用と麻酔手技の変更がなされた。

 主要評価項目は気道合併症を少なくとも1つ有する患者の発生率、副次評価項目は各PPEの気道合併症リスクとした。

気道合併症は10%に発生

 検討の結果、SARS-CoV-2陰性が5,351例、陽性または不明が554例。40〜79歳が6割以上を占め、女性が54.7%、術前に評価した米国麻酔科学会の全身状態分類(ASA-PS)はⅡが52.1%で最も多く、次いでⅢが24.8%だった。

 呼吸の保護具としてFFP2またはFFP3マスク、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)が、SARS-CoV-2陽性または不明患者に対する気管挿管または声門上器具(SGA)挿入の42.5%に、SARS-CoV-2陰性患者では13.0%に使用された。

 気道合併症の発生率は10.0%(95%CI 9.2〜10.8%)で、麻酔導入時の発生が9.0%、覚醒時の発生が1.2%だった。重篤な合併症はなかった。

フェースマスク換気の困難さ、酸素飽和度低下が関連

 解析の結果、FFP2またはFFP3マスクの使用と気道合併症の発生との間に有意な関連が認められた〔オッズ比(OR)1.38、95%CI 1.04〜1.83〕。この関連は患者のBMI、COVID-19の重症度、気道管理手術を調整後も維持された。

 医療者のFFP2またはFFP3マスクの使用に関連する患者の気道合併症は、主に患者へのフェイスマスク換気の難しさ(OR 1.68、95%CI 1.09〜2.61)、患者の酸素飽和度の低下(90%以下、同2.39、1.26〜4.54)によるものだった。

 一方、ゴーグル、長袖ガウン、二重手袋、PAPR、ビデオ喉頭鏡の使用と気道合併症の発生との関連は認められなかった。

 以上から、Potter氏らは「医療者のFFP2またはFFP3マスクの使用が、患者の気道合併症のリスクをわずかではあるが有意に上昇させることが示された。一方、その他のエアロゾル予防策との関連はなかった」と結論。要因として同氏らは、シミュレーション研究において再利用可能なFFP2またはFFP3マスクの着用によって報告されている熱による不快感、発話の明瞭度の低下に注目。その上で「FFP2またはFFP3マスクの使用と気道合併症との因果関係を確立するには、さらなる研究が必要だ」と付言している。

(宇佐美陽子)