スペイン・hospital general universitario de AlicanteのEnrique de‑Madaria氏らは、急性膵炎患者を対象として積極的輸液と適量輸液を比較する非盲検のランダム化比較試験WATERFALLを実施。中間解析において、中等症または重症の膵炎の発生率に有意差が認められなかったことから試験は中止された。詳細はN Engl J Med(2022; 387: 989-1000)に掲載された(関連記事「新・急性膵炎GLのポイントはここだ!」)。
推奨に見合う一貫したエビデンスはなし
急性膵炎の管理では早期の積極的輸液が広く推奨されているが、エビデンスは限定的である。循環血液量減少のマーカーである血液濃縮は膵臓壊死と関連するものの、早期に大量輸液を行っても予後は改善しないことが観察研究で示唆されている。また、ランダム化比較試験の結果は一貫しておらず、システマチックレビューでは積極的輸液と比べて適量輸液で有害事象の発生と死亡が抑制されたことが示されている。
WATERFALLの対象はインド、イタリア、メキシコ、スペインの18施設を疼痛発生から24時間以内に救急受診し、組み入れ前8時間以内に診断を受けた急性膵炎患者。乳酸リンゲル液による目標指向型の積極的輸液を行う群と適量輸液を行う群に1:1でランダムに割り付けた。目標登録数は744例で、248例を組み入れ後に中間解析を予定した。
積極輸液群では20mL/kgを2時間でボーラス投与し、その後3mL/kg/時を投与。適量輸液では、血液量減少が認められた患者には10mL/kgをボーラス投与、正常血液量の患者にはボーラス投与を行わず、その後、全例に1.5mL/kg/時を投与した。
生化学的評価と身体評価を12、24、48、72時間後に行い、患者の臨床状態に基づき輸液を調整した。主要評価項目は、入院中の中等~重症の膵炎発症とした。主要安全性評価項目は循環血液量過剰とし、症状、身体的徴候、画像所見のいずれか2つ以上をもって判断した(急性呼吸窮迫症候群は除外)。
循環血液量過剰のリスクが約3倍、入院期間延長や症状増強も
249例(積極的輸液群122例、適量輸液群127例)で中間解析を実施した。ベースラインの患者背景は両群で同等だった。
循環血液量過剰の発生率は、適量輸液群の6.3%に対し積極的輸液群では20.5%と有意に高かった〔調整相対リスク(aRR)2.85、95%CI 1.36~5.94、P=0.004〕。一方、中等症または重症の膵炎の発生率はそれぞれ17.3%、22.1%と有意差がなかったことから(aRR 1.30、95%CI 0.78~2.18、P=0.32)、試験は中止された。
入院期間の中央値は、適量輸液群の5日(四分位範囲3~7日)に対し、積極的輸液群では6日(同4~8日)だった。また、適量輸液群と比べて積極的輸液群では症状が重篤で、壊死性膵炎の発生率、集中治療室入室率が高い傾向が認められた。
de‑Madaria氏らは「急性膵炎患者に対し早期の積極的輸液を行っても臨床転帰が改善することはなく、循環血液量過剰の発生率が高くなった」と結論。「今回の結果は現行のガイドラインを支持しておらず、多くの臨床医が早期の大量輸液を好む現状を考慮すれば、積極的輸液から便益が得られなかったことは臨床上重要である」と警鐘を鳴らしている。
(小路浩史)