スウェーデン・Karolinska InstituteのJiangwei Sun氏らは、同国の全国患者登録データを用いたコホート内症例対照研究を行い、入院または外来による治療を要した感染症(感染症治療歴)と神経変性疾患との関連を検討。その結果、アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)では診断より5年以上前の感染症治療歴が60歳未満での発症リスク上昇と関連しており、40歳以前に複数の感染症治療歴があった者で最もリスクが高かったとPLoS Med(2022; 19: e1004092)に発表した。一方、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では同様の関連が認められなかった(関連記事「インフルワクチンでアルツハイマー病4割減」)。
40歳前の複数感染でAD、PDと強い関連
Sun氏らはまず、スウェーデンの全国患者登録データから1970~2016年に新規に診断された同国在住のAD患者29万1,941例(診断時の年齢中央値76.2歳、男性46.6%)、PD患者10万3,919例(同74.3歳、55.1%)、ALS患者1万161例(同69.3歳、56.8%)を抽出。次に、患者1例に対し性および生年月日をマッチングした神経変性疾患を有さない5例をランダムに選出し対照群とした。
AD/PD/ALSの診断前5年以内の感染症罹患例を除外した条件付きロジスティック回帰モデルによる解析の結果、診断より5年以上前の感染症治療歴が将来のAD〔調整後オッズ比(aOR)1.16、95%CI 1.15~1.18、P<0.001〕、PD(同1.04、1.02~1.06、P<0.001)の発症リスクの有意な上昇と関連していた。
感染症治療歴によるAD/PD発症リスク上昇は感染症の種類(細菌感染症、ウイルス感染症、その他の感染症)を問わず認められ、感染部位別でも消化管感染症および尿生殖器感染症で同様の結果が示された。
これらの関連は感染時年齢の上昇とともに弱まり、40歳以下でAD(aOR 1.86、95%CI 1.82~1.90、P<0.001)、PD(同1.20、1.15~1.25、P<0.001)ともに最も関連が強かった。
さらに、40歳以前に2回以上の感染症治療歴があった者でAD発症リスク(aOR 2.62、95%CI 2.52~2.72、P<0.001)、PD発症リスク(同1.41、1.29~1.53、P<0.001)が最も高かった。
60歳以降のAD/PD発症リスクには関連せず
AD/PD発症(診断)時の年齢で見ると、感染症治療歴と発症リスクとの関連は60歳未満でのAD診断例(aOR 1.93、95%CI 1.89~1.98、P<0.001)、PD診断例(同1.29、1.22~1.36、P<0.001)で認められたが、60歳以降でのAD診断例(同1.00、0.98~1.01、P=0.508)、PD診断例(同1.01、0.99~1.03、P=0.382)では認められなかった。
感染部位別に見ると60歳未満での発症リスクが最も高かったのは、ADでは泌尿生殖器(aOR 2.75、95%CI 2.54~2.98、P<0.001)、PDでは中枢神経系(同1.39、1.15~1.69、P<0.001)の感染症だった。
一方、ALSに関しては診断時年齢、感染症の種類、感染部位にかかわらず、感染症治療歴と発症リスクに関連が認められなかった(aOR 0.97、95%CI 0.92~1.03、P=0.384)。
これらの結果は、AD/PD/ALS診断前10年以内の感染症罹患例を除外した解析でも一貫して認められた。
Sun氏らは「観察研究であるため因果関係は証明できないが、感染症と神経変性疾患を関連付けるメカニズムは特定の病原体に固有のものではなく、全身性炎症が脳の健康に影響を及ぼす可能性が示唆された。感染症が既存の疾患プロセスの引き金または増幅因子となって、比較的若年での神経変性疾患の発症につながったと考えられる」と結論。「感染症の病原体とその代謝産物が、ADにおけるアミロイドやタウ蛋白質、PDにおけるαシヌクレインといった折り畳み異常を来した蛋白質(ミスフォールディング蛋白質)の中枢神経系への沈着を促す可能性がある。また、病原体が感染部位に炎症反応を引き起こすことで産生される場合がある炎症誘発性サイトカインやケモカインは、病原体と同様に血液脳関門を通過して中神経系に侵入し、脳内のグリア細胞の1つであるミクログリアやアストロサイトを活性化し神経炎症を誘発すると推測される」と付言している。
(太田敦子)