昨年(2021年)12月に日本で軽症〜中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する初の経口薬として特例承認され、先ごろ一般流通が開始されたモルヌピラビルについて、最新のリアルワールドデータが示された。イスラエル・Lady Davis Carmel Medical CenterのRonza Najjar-Debbiny氏らはClin Infect Dis2022年9月20日オンライン版)に、同国最大の保険データベースを用いた後ろ向きコホート研究の結果を提示。「モルヌピラビルは、COVID-19重症化リスクを有する高齢、女性、ワクチン接種が不十分な者に有効な可能性がある」と発表している。(関連記事:「コロナ薬モルヌピラビル、一般流通開始へ」)

重症化または死亡の複合転帰を検証

 モルヌピラビルは、重症化リスクが高い軽症〜中等症のCOVID-19患者に用いられる経口抗ウイルス薬である。昨年12月23日に国際共同第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験MOVe-OUTの中間解析結果を受けて米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を発出し、イスラエルでは今年1月に導入された。MOVe-OUT試験では、軽症〜中等症患者における入院または死亡を31%抑制する効果が認められている。

 Najjar-Debbiny氏らは、イスラエル国民の半数以上が加入している保険組織Clalit Health Services(CHS)のデータベースと保健省(MOH)のCOVID-19データベースから、今年1〜2月に初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査を受け、COVID-19の重症化リスクが高くモルヌピラビルへの禁忌がない成人21万1,279例を特定。モルヌピラビルが処方されたモルヌピラビル群2,661例と傾向スコアマッチング法で年齢、性、民族などをマッチングしたプラセボ群2,661例を選出し、COVID-19重症化または死亡の複合転帰発生まで最大28日追跡した。

サブ解析で有意差

 検討の結果、複合転帰の発生率(1,000人・月当たり)はモルヌピラビル群が22.8、対照群が27.4で、モルヌピラビル群における有意なリスク減少は認められなかった〔ハザード比(HR)0.83、P=0.334)。複合転帰を重症化、死亡に分けて評価しても、有意差はなかった(順にHR 0.75、P=0.159、HR 0.81、P=0.473)

 一方、複合転帰のサブグループ解析では、高齢者(75歳超)、女性、不十分なワクチン接種の各グループにおいて、モルヌピラビル群における有意なリスク減少が認められた(順に交互作用のP=0.018、P=0.003、P=0.006)。この傾向は、主解析と同じく複合転帰を重症化、死亡に分けて評価しても一貫して認められた()。

図. サブグループ解析におけるモルヌピラビルの有効性

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Clin Infect Dis 2022年9月20日オンライン版)

 以上の結果について、Najjar-Debbiny氏は「後ろ向きコホート研究から、モルヌピラビルはCOVID-19重症化リスクを有する高齢者、女性、ワクチン接種が不十分な者においてCOVID-19重症化および関連死のリスク低減に有効である可能性が示された」と結論している。

(平山茂樹)