スウェーデン・Örebro University/Karolinska InstitutetのLin Li氏らは、同国の注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者3万7,000例超を含む心血管疾患(CVD)の既往歴がない成人500万例超を平均11.8年追跡する人口ベースのコホート研究で、ADHDとCVDリスクとの関連を検討。その結果、ADHD群のCVD発症リスクは非ADHD群の2倍以上であり、ADHDがCVDの独立した危険因子であることが示唆されたとWorld Psychiatry2022; 21: 452-459)に報告した。

CVD発症率:ADHD群38.05% vs. 非ADHD群23.57%

 一部の精神疾患や神経発達障害は、世界の死因第1位であるCVDの発症リスクを高めることが示されている。ADHDは有病率が小児で2~7%、成人で2.5%と最も一般的な神経発達障害の1つだが、ADHDとCVDリスクの関連を検討した研究は極めて少ない。  

 そこで、Li氏らは成人におけるADHDとCVDの関連を検討するため、スウェーデンの国民登録データを用いて1941~83年に出生し2001年時点で同国に在住していたCVD既往歴がない成人538万9,519例(登録時の平均年齢38.44歳、男性51.04%)を抽出。うちADHDの診断または治療薬の処方を受けていたのは3万7,027例(ADHD群、同30.34歳、55.30%)、非ADHD群は535万2,492例(同38.49歳、51.01%)だった。  

 2013年まで6,408万4,464人・年(平均11.80年)追跡した結果、74万6,572例が新規にCVDと診断された。なんらかのCVDの発症率は、非ADHD群の23.57%(95%CI 23.47~23.67%)に対し、ADHD群では38.05%(同34.87~41.52%)と有意に高かった(P<0.0001)。

心停止は1.88倍、末梢血管疾患/アテローム動脈硬化は1.71倍

 性および出生年を調整後(モデル1)の解析で、ADHD群におけるCVD発症リスクは非ADHD群の2倍以上だった〔ハザード比(HR)2.05、95%CI 1.98~2.13〕。

 モデル1に加え、学歴、出生国、CVD危険因子(2型糖尿病、肥満、脂質異常症、睡眠障害、重度喫煙)を調整後(モデル2)の解析でも、ADHDとCVDリスク上昇の有意な関連が認められた(HR 1.84、95%CI 1.77~1.91)。

 ただしモデル2に加え、ADHDに合併する精神疾患を調整後(モデル3)の解析では関連が弱まり、CVDとの関連を十分に説明できなかった(HR 1.65、95%CI 1.59~1.71)。

 モデル1、2では、ADHD群での有意なリスク上昇は解析対象とした17種類のCVDで認められ、モデル3では一部有意差が消失したものの、最も高リスクだったのは心停止(HR 1.88、95%CI 1.49~2.38)、次いで末梢血管疾患/アテローム動脈硬化(同1.71、1.47~1.99)の順だった。

30歳以下の若年男性、摂食障害、物質使用障害で高リスク

 サブグループ解析では、ADHDとCVDとの関連は女性(HR 1.58、95%CI 1.49~1.68)より男性(同1.70、1.62~1.79)、高齢者(61~73歳:同1.22、1.08~1.37)より若年成人(18~30歳:同2.49、2.17~2.87)で強かった(モデル3、全てP<0.001)。

 また、非ADHD患者に対するCVDリスクは、ADHDのみの患者(HR 1.72、95%CI 1.59~1.86)と比べ他の精神疾患を合併するADHD患者(同1.87、1.79~1.95)で高かった。疾患別に見ると、摂食障害(同2.21、1.72~2.85)、物質使用障害(同2.20、2.09~2.33)の合併例で最もリスクが高かった(モデル2)。一方、抗精神病薬の使用およびCVD家族歴の有無による差はなかった。

 以上の結果から、Li氏らは「ADHDは、確立された危険因子やADHDに合併する精神疾患、抗精神病薬とは独立したCVD危険因子であることが示唆された。成人ADHD患者の心血管の健康状態を慎重にモニタリングすることの重要性や、年齢に応じ個別化されたCVDリスク低減策の必要性が浮き彫りになった」と結論している。

(太田敦子)