PCSK9阻害薬などの登場で脂質や心血管イベントのリスク管理は容易になったが、LDLコレステロール(LDL-C)を下げ過ぎることの安全性については議論が多い。イタリア・University of Eastern PiedmontのGiuseppe Patti氏らは、LDL-C管理目標を40mg/dL未満(LDL-C超低レベル)に設定した強化脂質低下療法の有用性を検証した臨床試験のメタ解析を実施。強化脂質低下療法の安全性が示されたことをEur Heart J Cardiovasc Pharmacother(2022年9月14日オンライン版)に発表した。

10試験・約11万例が対象

 今回の対象は、LDL-Cレベルを強化脂質低下療法により40mg/dL未満で管理した群(LDL-C超低下群)と標準脂質低下療法により40mg/dL以上で管理した群(対照群)に分け、その後の心血管イベント抑制効果を検証したランダム化比較試験(RCT)やそれらの試験のサブグループ解析など。MEDLINE、PubMed、EMBASE、Clinicaltrials.gov、Cochrane databasesを用いて、 "lipid-lowering therapy/treatment"など、12個のキーワードで検索し、2021年12月1日までに発表された試験や解析を抽出した。 LDL-Cレベル40mg/dL未満は、2019年年版の欧州心臓病学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)の脂質異常症管理ガイドライン(Eur Heart J 2020; 41: 111-188)において、最も心血管リスクが高い患者に推奨されている最も厳格な値であり、同ガイドラインを参考に設定した。

 主要評価項目は、各試験における直近の追跡データから評価した低LDL-C値における安全性とし、非心血管死、なんらかの有害事象、試験薬の中止に至る有害事象、がん、出血脳卒中、新規糖尿病、神経認知障害、血液胆道障害、筋疾患、白内障の発症を評価した。有効性の評価項目は、主要心血管イベント(MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中)とした。

 10件のRCTをメタ解析に組み入れ、LDL-C超低下群は3万8,427例、対照群は7万668例だった。10件のうち7件は心血管疾患患者の再発(二次)予防の試験で、2件は初発(一次)予防、残る1件は一次および二次予防の患者を含む試験だった。脂質低下薬の内訳は、高用量スタチンが2件、シンバスタチン+エゼチミブが1件、PCSK9阻害薬が6件、CETP阻害薬が1件で、追跡期間の中央値は28.8カ月であった。

非血管死などの安全性に有意差なし

 主要評価項目の安全性について見ると、100人・年当たりの非心血管死はLDL-C超低下群で1.1、対照群で0.9と有意差はなかった(P=0.36)。その他、なんらかの有害事象がそれぞれ29.1、26.0(P=0.94)、試験薬の中止に至る有害事象が1.9、2.0(P=0.99)、がんが2.2、1.7(P=0.57)、出血脳卒中が0.12、0.13(P=0.44)、新規糖尿病が2.3、2.1(P=0.23)、神経認知障害が3.0、2.2(P=0.23)は、血液胆道障害が0.7、1.0(P=0.93)、筋疾患が0.4、0.4(P=0.49)、白内障が0.9、0.8(P=0.34)と、いずれも有意差はなかった。

 安全性について感度分析を行うと、なんらかの有害事象では一次予防の患者群〔オッズ比(OR)1.01、95%CI 0.82~1.23、P=0.96〕および二次予防の患者群(同0.95、0.86~1.04、P=0.26、交互作用のP=0.60)のいずれも有意な関連はなく、服薬中止につながった有害事象や薬剤クラス別に見た分析でも有意な関連は認められなかった。

 一方、各試験で定義した有効性の複合評価項目のイベント発生(100人・年当たり)は、対照群の4.0に対し、LDL-C超低下群で3.1(OR 0.84、95%CI 0.75~0.95、P=0.004)、MACEについてもそれぞれ3.2、2.7(同0.82、0.72~0.94、P=0.005)と、LDL-C超低下群で有意にリスクが低かった。

 以上の結果を踏まえ、Patti氏は「より長期の安全性についてのデータは不足しているものの、今回の大規模メタ解析の結果は、強化脂質低下療法によりLDL-Cレベルを40mg/dL未満で管理することの妥当性を支持するものである」と述べている。

(編集部)