X染色体連鎖性低リン血症性くる病(XLH)※、いわゆるビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症患者は、慢性的に低リン血症状態にあるため、小児発症例であっても成人期以降の治療を要する。XLHに対する治療として、近年、抗線維芽細胞増殖因子(FGF)23抗体ブロスマブが登場した。東京大学病院腎臓・内分泌内科特任講師/同大学骨粗鬆症センター副センター長の伊東伸朗氏は、高額である同薬の適応基準は各国の医療制度によって影響を受ける可能性があると指摘。ブロスマブの投与が望ましい患者像として、低身長かつ下肢機能軸zone 3以上などの重症例とする私案を、Endocrines(2022; 3: 375-390)に報告した。
股関節周囲の骨棘、腱付着部症が高頻度に合併
XLHは、リン代謝調節因子であるphosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases on the X chromosome(PHEX)遺伝子の機能喪失型変異により、慢性低リン血症と骨石灰化障害を来すまれな遺伝性代謝性骨疾患である。
小児例では低身長、脚の変形、歯周炎などの症状が現れるが、成人例ではそれらに加えて早期変形性関節症、異所性骨化、難聴、活性型ビタミンD3製剤やリン製剤による治療に伴う二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)、三次性副甲状腺機能亢進症(THPT)、慢性腎臓病(CKD)など多岐にわたる。
これらのうち異所性骨化について伊東氏の研究グループは、東京大学病院の成人XLH患者25例〔平均年齢43歳(範囲18~72歳)、男性13例〕を後ろ向きに検討。「後縦靭帯骨化症(OPLL)の有病率は32%、股関節周囲での骨棘はKellgren-Lawrence分類Ⅱ(軽度)以上が96%、腱付着部症は72%と高頻度であった。XLHは腱付着部症を来しやすい遺伝性疾患であることが示された」と述べている。
なお同氏によると、OPLLに伴う神経症状や股関節・椎間関節の可動域制限の影響で、日常生活動作(ADL)とQOLの著しい低下が見られる症例もいるという。
XLH患者における難聴の発生メカニズムは明らかでないが、骨軟化症による側頭骨の変形や低リン血症に由来する内リンパ水腫に起因することが示唆されている(Orphanet J Rare Dis 2019; 14: 58)。
XLH患者では筋力の低下も見られるが、VeilleuxらがXLH患者13例(年齢範囲6~60歳)を年齢、性でマッチングさせた対照群と比べたところ、下肢の筋体積は正常であるにもかかわらず筋力が著しく低下していた(J Clin Endocrinol Metab 2013; 98: E990-E995)。しかし、伊東氏は「筋力低下の原因について、低リン血症が筋細胞に直接作用していると考えがちだが、観察された筋力低下は骨軟化症による骨痛、下肢の変形や腱付着部症に起因するインピンジメント症候群に伴う筋肉収縮の非効率的な伝達としても説明できる」と指摘している。同氏らは以前に、急速に誘導される低リン血症は筋力低下に関連しないことを報告している(J Bone Miner Metab 2007; 25: 419-422)。
血中FGF23が30pg/mL以上で診断、確定診断には遺伝子検査を
伊東氏は、臨床医には小児期発症の重症XLH例であっても骨端部閉鎖後に治療を終了できると考える者がいると指摘している。しかし同氏によると、成人XLH患者は骨密度(BMD)が正常~高値でも低回転型であるため、偽骨折や骨折のリスクが高いと認識されるようになったという(Endocrinol Metab 2013; 98: E954-E961、J Clin Endocrinol Metab 2021; 106: e3682-e3692)。
慢性低リン血症を呈する成人患者の中には、XLH未診断例もいると考えられる。日本では、くる病・骨軟化症の症状を伴う慢性低リン血症例に対し、慢性低リン血症の病因を鑑別する目的での血中FGF23の測定が推奨されている。FGF23は骨細胞で産生されるリン調節ホルモンで、XLHや腫瘍性骨軟化症(TIO)などではFGF23が相対的に過剰産生されるため、尿中へのリン排泄が促進され体内への取り込みの阻害を介して血中リン濃度が低下する。
慢性低リン血症性くる病・骨軟化症の存在下で血中FGF23濃度が30pg/mL以上であれば、XLHを含むFGF23関連低リン血症くる病・骨軟化症と診断される。XLHの確定診断には遺伝子検査によるPHEX変異の判定が推奨される(Eur J Endocrinol 2012; 167: 165-172)。
従来治療法またはブロスマブが適する臨床像
XLHの治療法としては、リン製剤と活性型ビタミンD3製剤の併用(従来治療)または抗FGF23抗体ブロスマブが使用できる。伊東氏によると、ブロスマブは高額であるため、適応基準については各国の医療制度により異なる可能性があるという。今回、私見と断った上で成人XLH患者における薬物治療の適応および選択を提案している(表)。
表. 成人XLH患者に対する治療の適応基準(私案)
1)J Child Orthop 2017; 11: 298-305
(Endocrines 2022; 3: 375-390)
成人XLH患者の重症度は同一変異を持つ家族間でも異なり、同氏の私案によると骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)が基準範囲上限値以下で、身長が-1標準偏差(SD)以上、下肢機能軸zone 1以内、荷重骨の偽骨折/骨痛または歯髄炎/歯膿瘍の既往がなければ経過観察とし、必ずしも低リン血症治療を必要としない。
従来治療が望ましいのは、BAPが基準範囲上限値以上かつ推算糸球体濾過量(eGFR)が45mL/分/1.73m2以上、身長が-1.0~-2.0SD(低身長)かつeGFRが45mL/分/1.73m2以上、下肢機能軸zone 2かつeGFRが45mL/分/1.73m2以上、荷重骨の偽骨折/骨痛または歯髄炎/歯膿瘍のいずれかの既往が1度以内でeGFRが45mL/分/1.73m2以上、ブロスマブに対する治療反応がないまたは極めて小さい、ブロスマブによる有害事象を経験した例。
一方、重症の成人XLH患者では従来治療ではなくブロスマブによる治療を要する。同氏が考える重症例とは、身長が-2.0 SD未満(低身長)、下肢機能軸zone 3以上または脚の矯正手術歴あり、荷重骨の偽骨折/骨痛または歯髄炎/歯膿瘍の既往が2回以上もしくは、従来治療下で1回以上。または荷重骨の完全骨折既往例や偽骨折に対する手術および骨矯正術を予定している症例、重篤なSHPT例、THPT例などとしている。
ブロスマブは、XLH患者のFGF23過剰産生の阻害を介してリン代謝異常を生理的に補正した状態にすることから、SHPTおよびTHPTの発症、CKD進展と関連しないと考えられている。したがって、同氏は「CKD合併例に加え重症SHPT/THPT合併例でもブロスマブの投与を検討すべき」としている。
ブロスマブの現行の用法用量では効果不十分例も
XLHの薬物療法については臨床での課題も残る。患者の多くは腱付着部症、OPLL、変形性関節症などの合併症により、ADLおよびQOLが著しく低下する。これらの合併症は、XLHを含めた一部の遺伝性FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に限定されることから、慢性低リン血症を介して生じるものではないと予想され、従来療法やブロスマブによる改善効果が期待できない。そのためこれらに対する治療法の開発に向け、病態解明をさらに進めていく必要がある。
従来療法については、重症SHPT/THPTの発症やCKD進展とリン製剤、活性型ビタミンD3製剤の最高用量および累積試用量とのより詳細な関係を明らかにし、使用方法を適正化した詳細なガイドラインの作成が望まれる。さらに、ブロスマブについて伊東氏は「ブロスマブ投与中の成人XLH患者の中には、現在の用量(1.0mg/kg)および用法(4週間に1回)で効果不十分例がおり、見直しを要する」との認識を示している。
(田上玲子)