近年、日常的に家事や家族の介護・世話を行う18未満の子供、いわゆるヤングケアラー(YC)の存在が認識されるようになり、負担の大きさ、学業・就職への影響などが問題視されている。政府や自治体による支援体制の構築が進められているものの、日本におけるYCの割合や担っているケアの内容などについて、他国と比較できる尺度はない。東京大学病院精神神経科特任助教の金原明子氏は英・ノッティンガム大学社会科学学術院教授のStephen Joseph氏らと共同でYC尺度の日本語版を作成し、日本の中高生を対象にYCの割合や実態に関する調査を実施。その結果、7.4%がYCに該当し、非YC群に比べてYC群では向社会性が高い半面、不安や抑うつが強い傾向が示されたとPsychiatry Clin Neurosci2022年9月21日オンライン版)に発表した。

各国で定義が異なり、当事者の認知度は低い

 YCは1980年代末に英国で提唱された概念であり、英国保健サービス(NHS)は「慢性的な疾患や障害、メンタルヘルス、アルコールや薬物の問題などを抱える家族の世話をしている18歳未満の者」と定義している。それに対し、日本ケアラー連盟は疾患や障害に限定せず、「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子供」とするなど、国により定義が異なる。

 英国では2014年にYCの支援に関する法律が制定され、スウェーデン、スイス、カナダ、米国などの調査ではYCの割合は4.5~7.9%と報告されている。厚生労働省が2020年に行った調査では、中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答し、世話をしている頻度は「ほぼ毎日」がそれぞれ45.1%、47.6%を占めた一方で、自分が「YCに当てはまる」と回答した割合は1.8%、2.3%にとどまった。

 そこで金井氏らは、日本においてYCの認知や理解を広め、支援を促進する上で不可欠な国際比較が可能な尺度の作成および実態調査に着手した。

日本語版尺度とSDQを用いて実態を調査

 金井氏らはまず、ノッティンガム大学と英国放送協会(BBC)が英国におけるYCの実態調査(Child Care Health Dev 2019; 45: 606-612)に用いた評価尺度を日本語訳。首都圏在住の青少年313人を対象に、信頼性と妥当性を確認した上で、YC尺度日本版(YCS-J)を作成した。以下の①~⑤の項目に回答してもらい、国際的な定義にのっとり①と②を満たす場合をYCと判定する。

YCS-Jにおける尺度の項目

① 同居家族に病気や障害を抱えている者がいるか

② いる場合、その者の手助けをしているか

③ その者は家族の中の誰か

④ その手助けが必要である理由

⑤ 同居家族に病気や障害を抱えている者がいるか、いないかにかかわらず、過去1カ月間の手助けの内容・頻度

 次に埼玉県の私立中学校・高校21校(中学校9校、高校12校)の生徒を対象に、YCの実態に関する大規模調査を実施。2020年10月1日~11月7日に募集し、同意が得られた5,000人(中学生780人、高校生4,220人、男児54.8%)が参加した。

 調査では、負担を軽減するためYCS-Jの項目①と②のみに回答してもらい、YCを評価した。精神衛生上の問題については、子供の情緒や行動についての25の質問項目を親または学校教師が回答する「子供の強さと困難さアンケート(SDQ)」を用いて評価し、YC群と非YCで比較した。

「情緒の問題」に低いスコアを示す

 解析の結果、YCの割合は全体の7.4%(370人)を占め、中学生で6.7%(57人)、高校生で7.5%(318人)だった。この割合は先述の厚労省の調査や先行研究(4~6%)とほぼ同等で、西欧諸国の結果(4.5~7.9%)とも類似していたが、YCS-Jの基となった尺度を用いた英国の先行研究(22.9%)より少なかった。この点について、金井氏らは「英国に比べYCの概念が普及しておらず、本人が自覚していない、主に母親が家事を担当していることなどが関与しているのではないか」と考察している。

 SDQの下位尺度スコアを見ると、非YC群に比べてYC群では向社会的な行動(高得点ほど強みが大きい)が有意に良好だったが(6.1点 vs. 6.7点、P=0.000)、情緒の問題(高得点ほど困難が大きい)は有意に不良で(3.9点 vs. 4.6 点、P=0.000)、不安や抑うつ傾向にあることが示された。総合的困難さも有意に不良だった(11.8点 vs. 13.1 点、P=0.000)。

 金井氏らは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下で実施したこと、男子生徒が多く私立校の生徒に偏っていることなどが影響した可能性がある。また横断研究であるため因果関係の解釈には注意が必要である」と研究の限界を挙げた上で、「国際的に比較可能な尺度を用いた実態調査から、日本の中高生の7.4%がYCに該当し、それらの子供では不安や抑うつが強い傾向にあることが示された。YCの実情をより詳細に調査し、教育、福祉、保健領域での支援を届ける必要がある」と結論している。

(小野寺尊允)