QOLの低下や要介護状態にもつながる腰痛。学校教育における就学年数と腰痛には関連があると報告されるが、因果関係は明らかでない。山形大学大学院医療政策学講座講師の池田登顕氏らは、英国の大規模縦断研究のデータを用いて義務教育期間と腰痛の関連について検討。結果をAm J Epidemiol(2022年9月26日オンライン版)に報告した。
義務教育期間が異なる中高年期の腰痛を評価
生涯に腰痛を経験する割合は約40%に上るが、発症には身体機能や筋力低下に伴う要因だけでなく、社会的要因も関連しているという。社会的要因の中でも、学校教育における就学年数と腰痛の関連が報告されているが、池田氏らによると両者の因果関係は明らかでないという。
そこで同氏らは、英国の加齢に関する大規模縦断研究English Longitudinal Study of Agingのデータを用い、義務教育期間と中高年期の腰痛の関連を検討。英国では政策転換により義務教育期間が1947年(1933年4月1日以降に生まれた出生コホート)に14歳から15歳に延長され、1972年(1957年9月1日以降に生まれた出生コホート)には15歳から16歳に引き上げられた。解析では16年・5,070例(2万2,868件)のデータを対象とした。腰痛の評価には、10段階の疼痛評価スケール(Numerical Rating Scale;NRS)を用いた(2ポイント以上の減少が臨床的意義のある改善と定義)。
就学年数3年延長で臨床的意義のある腰痛軽減効果か
政策転換により就学年数は、1947年で0.57年、1972年で0.66年といずれも有意に延長した。NRSに基づく解析の結果、1947年の就学年数延長の影響を受けた高齢者集団(平均年齢74.5歳、3,231例)では、就学年数が1年延長するごとにNRSスコアは0.25ポイント(95%CI −0.97〜0.46ポイント)低下したが、有意差は認められなかった。一方、1972年の就学年数延長の影響を受けた中年者集団(平均年齢59.3歳、1,839例)では、就学年数1年延長ごとにNRSスコアは0.78ポイント(95%CI −0.92〜−0.65ポイント)の有意な低下が示された(P<0.01)。男女別の検討では、中年者および高齢者のいずれの集団とも有意差は認められなかった。
以上から、池田氏らは「教育期間と腰痛の因果関係を検討した世界初の研究により、義務教育期間の延長が中年期における腰痛発症リスクの低下と関連することが示された。一方、高齢期では明確な効果は認められなかった」と結論。「就学年数と腰痛の因果関係が直線的と仮定した場合、就学年数が3年延長することで臨床的に意義のある腰痛軽減効果が期待できる」と考察している。
(編集部)