肺高血圧症(PH)は間質性肺疾患(ILD)患者の最大86%に見られ、運動機能やQOLの低下、死亡リスクの上昇に関連する。こうした中、プロスタサイクリン(PGI2)誘導体のトレプロスチニル吸入薬がILDによるPH(PH-ILD)患者の運動機能を改善し、臨床的悪化を抑制することを示したINCREASE試験の結果が昨年(2021年)報告された。 米・Inova Fairfax HospitalのSteven D. Nathan氏らは今回、高用量トレプロスチニル吸入薬の有用性を評価するため、同試験のpost-hoc解析を実施。1回の吸入数が9以上の高用量トレプロスチニル吸入薬群では、9未満の低用量群と比べて臨床的悪化イベントの発生率が低く、臨床的改善を達成した患者の割合が高かったとする結果をChest(2022年9月14日オンライン版)で報告した。
主解析では6分間歩行距離が延長
INCREASE試験は、PH-ILD患者に対するトレプロスチニル吸入薬の安全性と有効性の評価を目的とした多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験で、右心カテーテル検査で確定診断されたPH-ILD患者326例を対象に実施された。同試験では、トレプロスチニル吸入薬は超音波振動式ネブライザー(1吸入当たり6μg)で投与され、1回当たり3吸入を1日4回で開始し、その後1回当たり9吸入(目標用量)~12吸入(最大用量)まで漸増した。用量は患者ごとに最大耐用量となるよう調整した。
その結果、プラセボ群と比べてトレプロスチニル吸入薬群は主要評価項目である16週間後の6分間歩行距離(6MWD)で評価した運動機能が改善し、臨床的悪化の抑制効果が示された。
臨床的悪化は高用量群17.1%、低用量群22.8%
Nathan氏らは今回、高用量のトレプロスチニル吸入薬の使用によるベネフィットを検討するため、INCREASE試験のpost-hoc解析を実施した。解析対象は、試験開始から4週後までの試験脱落例を除いたトレプロスチニル吸入薬群149例とプラセボ群153例。各群を4週時点で1回当たりの吸入数が9以上の群(高用量トレプロスチニル吸入薬群70例、高用量プラセボ群86例)と9未満の群(低用量トレプロスチニル吸入薬群79例、低用量プラセボ群67例)の4群に分類して解析した。
主要評価項目は4週後から16週後までの臨床的悪化イベント(心肺に起因した入院、肺移植、死亡、6MWDが15%超短縮)発生率または臨床的改善〔6MWDの15%超延長、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド値(NT-proBNP)の30%超低下〕を達成した患者の割合とした。
その結果、4週後から16週後までの臨床的悪化イベントの発生率は、高用量プラセボ群が33.7%、低用量プラセボ群が34.3%だったのに対し、高用量トレプロスチニル吸入薬群は17.1%、低用量トレプロスチニル吸入薬群は22.8%とトレプロスチニル吸入薬群で低かった(P=0.006)。また、16週後までに臨床的改善が認められた患者の割合は、高用量プラセボ群で7%、低用量プラセボ群で1.5%だったのに対し、高用量トレプロスチニル吸入薬群では15.7%、低用量トレプロスチニル吸入薬群では12.7%とトレプロスチニル吸入薬群で高かった(P=0.003)。
以上の結果を踏まえ、Nathan氏らは「PH-ILD患者において、プラセボと比較した場合だけでなく、低用量トレプロスチニル吸入薬と比較した場合でも、高用量トレプロスチニル吸入薬の全般的なベネフィットが高いことが示された。このデータはPH-ILD患者に対して早期にトレプロスチニル吸入薬による治療を開始し、用量を1回当たり9吸入以上で1日4回まで漸増することの有効性を裏付けるものである」と述べている。
(岬りり子)