日本における消化器外科医の手術成績に性差がないことが分かった。日本バプテスト病院(京都市)/京都大学の大越香江氏、東京大学の遠藤英樹氏らは、日本消化器外科学会のデータベースを基に消化器外科医の手術関連死亡率、術後合併症発生率などの手術成績を男女別に比較検討した。その結果、消化器外科医の短期手術成績に性差は見られなかったとBMJ(2022; 378: e070568)に報告した。
女性外科医は少数派
経済協力開発機構(OECD)によると、近年、女性医師の数は世界的に増加しており、医師全体に占める女性医師の割合が40%以上の国は、2000年にはOECD加盟国27カ国中7カ国であったのが2018年には26カ国中21カ国に増加した。しかし、外科領域では依然として女性医師は少数派で、一般外科医における割合は、カナダで27.9%(2019年)、米国で22.0%(2019年)、英国で32.5%(2017年)となっている。
日本の女性医師の割合は21%とジェンダー・ギャップ・レポートに掲載された27カ国中最下位で、一般・消化器外科医全体に占める女性医師の割合は5.9%とさらに低い。その一方で、米国とカナダの研究で、女性医師・外科医の技術は男性医師・外科医と同等かそれ以上だという結果が出ている。そこで大越氏らは、胃がんや直腸がんに対して一般的に施行される手術3種類について日本の消化器外科医の手術成績に性差が見られるか検討した。
女性による手術は全体の5%のみ
大越氏らは、日本で施行された手術の95%以上を登録している日本消化器外科学会のデータベース「National Clinical Database」を用いて2013~17年に施行された3種類の手術(幽門側胃切除術、胃全摘術、低位前方切除術)の手術成績を女性と男性で比較した。主要評価項目は、術後90日以内の手術関連死亡率、手術関連死亡率および術後30日以内の合併症、膵液瘻(幽門側胃切除術と胃全摘術のみ)、縫合不全(低位前方切除術のみ)の発生率の複合とした。
2013~17年に幽門側胃切除術14万9,193件、胃全摘術6万3,417件、低位前方切除術8万1,593件が施行されていた。男女別では、幽門側胃切除術は男性外科医が14万971件(94.5%)、女性外科医が8,222件(5.5%)、胃全摘術はそれぞれ5万9,915件(94.5%)と3,502件(5.5%)、低位前方切除術はそれぞれ7万7,864件(95.4%)と3,729件(4.6%)施行しており、女性外科医は全手術の5%しか施行していなかった。
より高リスクの対象でも成績は同等
多変量ロジスティック回帰モデルで患者、外科医、病院の特徴を調整後、男性外科医と女性外科医における手術関連死亡率は、幽門側胃切除術〔調整オッズ比(OR)0.98、95%CI 0.74~1.29〕、胃全摘術(同0.83、0.57~1.19)、低位前方切除術(同0.56、0.30 ~1.05)のいずれにおいても差は認められなかった。
手術関連死亡率と合併症の複合も幽門側胃切除術(OR 1.03、95%CI 0.93~ 1.14)、胃全摘術(同0.92、0.81~1.05)、低位前方切除術(同1.02、0.91~1.15)で性差はなかった。
膵液瘻の発生率は幽門側胃切除術(OR 1.16、95%CI 0.97~1.38)と胃全摘術(同1.02、0.84~ 1.23)のいずれにおいても性差はなかった。低位前方切除術における縫合不全の発生率(同1.04、0.92~ 1.18)にも性差は認められなかった。
女性外科医は男性外科医に比べてよりリスクの高い患者(栄養不良、ステロイド長期服用、疾患の病期が高い)を対象に手術を施行していた。大越氏らは「それにもかかわらず、手術関連死亡率と術後合併症発生率に性差は認められなかった」と指摘した。
女性外科医の訓練機会の増加を
また、女性外科医は男性外科医に比べて医師免許登録からの年数が短く、腹腔鏡下手術が少なかった。大越氏らは「これは男性研修生の優遇措置や、子育てなど女性の伝統的な社会的役割に相反する負担に関連した訓練機会の減少によるものかもしれない」と考察している。
以上から、同氏らは「女性消化器外科医はより高リスクの患者を対象としているにもかかわらず、手術成績は男性消化器外科医と同等だった」と結論。その上で「女性医師に、より適切で効果的な手術トレーニングを受けさせることで手術成績がさらに改善する可能性がある。男女不平等を解消するために女性外科医がトレーニングを受ける機会を増やす必要がある」と付言した。
(大江 円)