高安動脈炎(TAK)は、血管の拡張や狭窄、閉塞、動脈瘤の形成を引き起こす原因不明の大血管炎で、指定難病の1つ。国内では、トシリズマブがTAKを適応症として2017年に承認されたが、多くの先行研究が小規模である点が指摘されていた。今回、東京女子医科大学膠原病リウマチ内科学講座の針谷正祥氏らは、日本人TAK患者を対象に多施設共同大規模前向き観察研究ACT-Bridgeを実施。その結果、トシリズマブの長期有効性および安全性が実証されたとMod Rheumatol2022年9月3日オンライン版)に発表した。(関連記事「高安動脈炎における世界初のRCTの結果を報告」)

ステロイド漸減で再発も

 TAKは若年女性に多く、アジアや中東諸国で発症率が高い。日本では、これまでに6,000例以上が指定難病患者として登録されている。

 TAKの寛解導入療法はステロイドが第一選択だが、投与量の漸減によりしばしば再発する。インターロイキン(IL)-6はTAKの発症に重要な役割を果たしており、遺伝子組み換えヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体であるトシリズマブを用いた二重盲検比較試験TAKTでは、トシリズマブがプラセボに比べTAK再発までの期間を延長するなど良好な成績が示されている。しかし症例数が36例と少なく、新たなエビデンスが求められていた。

 そこで針谷氏らは今回、多施設共同大規模前向き観察研究ACT-Bridgeを実施し、TAKに対するトシリズマブの有効性および安全性を検証した。対象は、国内66施設で2017年9月~20年9月に登録され、過去6カ月間にトシリズマブ投与歴のないTAK患者120例(平均年齢38.4±17.5歳、女性79.2%)。平均TAK罹患期間は7.7±10.2年、新規発症は46.7%、再発は50.8%。登録時にステロイドを使用していたのは97.5%で、平均投与量は16.5±13.3mg/日だった。トシリズマブ162mg/週の皮下投与を52週間継続した。

再発を予防し、ステロイドが減量できる可能性

 検討の結果、登録時の症状が治療後に消失したのは、発熱で4例、頸部痛で24例、胸痛および背部痛で15例、頭痛で13例、疲労感で37例、息苦しさで10例だった。一方、登録時に認められなかった症状の出現は、発熱が1例、頸部痛が3例、胸痛および背部痛が5例、頭痛が1例、疲労感が3例、息苦しさが1例に確認された。

 無再発率は80%だった。再発を来した20%の再発回数の内訳は、3回以上が0.8%、2回が2.5%、1回が16.7%だった。主治医により再発と診断された理由は、臨床所見が75.0%〔胸痛および背部痛(45.8%)、頸部痛(25.0%)、疲労感(16.7%)、発熱頭痛(各12.5%)〕で、画像所見異常が50.0%、炎症マーカーの上昇が16.7%だった。

 無再発例のうち、52週後にステロイドの併用が10mg/日未満(プレドニゾロン換算)だった割合は83.0%に上った。そのうち0mg/日は25.5%、0mg/日以上5mg/日未満は17.0%、5mg/日以上10mg/日未満は40.4%だった。

 有害事象は40.8%で報告された。最も頻度が高かったのは鼻咽頭炎(4.2%)で、胃腸炎、背部痛、倦怠感(各2.5%)が続いた。薬物有害反応は23.3%に報告された。最も頻度が高かったのは胃腸炎と鼻咽頭炎(各2.5%)だった。注目すべき有害事象として、重篤な感染症(7.5%)が報告された。

 以上を踏まえ、針谷氏らは「安全性は従来の報告と同様だった。TAKへのトシリズマブ投与は有益であり、再発を予防しつつステロイドを減量できる可能性がある。トシリズマブとステロイドの併用はTAKの治療選択肢となりうる」と結論している。

(山﨑和也)