骨盤骨折または大腿骨近位部骨折が、その後の分娩転帰に及ぼす影響を検討した研究はほとんどない。フィンランド・University of TampereのMatias Vaajala氏らは、骨盤・大腿骨近位部骨折で入院した妊娠可能年齢の女性約4,200例を14年間追跡し、手首骨折女性と帝王切開の割合を比較検討。その結果、緊急帝王切開率は受傷後早期のみ高く、予定帝王切開の割合は長期間経過後も高いままであることなどをEur J Obstet Gynecol Reprod Biol(2022; 277: 77-83)で報告した。経腟分娩は、骨盤・大腿骨近位部骨折後早期から可能としている。
受傷後14年間を3期に区分して比較
骨盤骨折から回復後の女性の大半で、経腟分娩が可能であることは複数の研究で示唆されているものの、骨折後の予定帝王切開率は高い。大腿骨近位部骨折は若齢者ではまれで、骨折後の分娩転帰についてはほとんど報告がない。
Vaajala氏らは、フィンランドの全国医療登録から1998~2018年に骨盤・大腿骨近位部骨折により入院した妊娠可能年齢(15~49歳)女性(曝露群)のデータを、全国出生登録から骨折後14年間の初回妊娠データを収集。対照群として手首骨折女性のデータを同様に収集し、骨盤・大腿骨近位部骨折後の帝王切開率の増減を、受傷後短期(0~4年)、中期(5~9年)、長期(10~14年)に分けて比較検討した。多胎妊娠例と妊娠中の骨折例は除外した。
対照群を手首骨折女性としたのは、背景とリスクテイキング行動(リスクを認識していながら自らの意思でリスクを負う行動を取ること)が一般人口よりも曝露群と類似しているものの、骨折部位が分娩に影響を与えることはまれで、回復も早いためである。追跡期間を14年としたのは、曝露群で挙児を希望した女性のほとんど(96.4%)が、この期間に妊娠しているためである。
骨盤骨折後は長期経過後も予定帝王切開が多い
全国医療登録データから骨盤骨折2,878例、大腿骨近位部骨折1,330例、手首骨折2万9,580例を同定した。追跡期間における出産は、骨盤骨折後が586例(20.4 %)、大腿骨近位部骨折後が147例(11.0 %)、手首骨折後が5,255例(17.7 %)だった。
全期間の予定帝王切開率は、手首骨折群の7.2%に比べ、骨盤骨折群で13.7%、大腿骨近位部骨折群で10.2%といずれも有意に高かった(P<0.001)。一方、緊急帝王切開は、大腿骨近位部骨折群で最も高かった(順に13.4%、14.8%、16.3%)。
予定帝王切開/経腟分娩(試験分娩)比は、骨盤骨折群では骨折から3年後には0.16に上昇し、14年後も高止まりしていた。大腿骨近位部骨折群では若干低い値(0.08~0.14)で推移していたが、両群とも手首骨折群(0.08~0.09)に比べて高かった(図1)。
図1.予定帝王切開/試験分娩比
一方、緊急帝王切開/(成功)経腟分娩比は、骨盤骨折群と手首骨折群では全期間を通じ0.15~0.20で同等だったが、大腿骨近位部骨折群では骨折から20カ月目までは0.6~2.1と著明に高く、その後は0.2~0.3に低下したものの、なお他の2群よりも高かった(図2)。
図2.緊急帝王切開/成功経腟分娩比
手首骨折群と比べた各期間の全帝王切開の調整オッズ比(aOR)は、骨盤骨折群が0~4年で1.62(95%CI 1.22~2.12)、5~9年で1.87(同1.33~2.62)、10~14年で1.97(同1.11~3.41)、大腿骨近位部骨折群が、それぞれ1.64(同 1.40~2.67)、1.52(同0.76~2.86)、1.22(同0.26~4.31)だった。
Vaajala氏らは「手首骨折群と比べ、骨盤骨折後の予定帝王切開率は全期間を通じて高いが、緊急帝王切開率は受傷後早期から同等であり、大腿骨近位部骨折後に関しても緊急帝王切開率が高いのは、受傷後早期のみである」と結論。「これらより、骨盤・大腿骨近位部骨折後の早期から、ほとんどの女性で経腟分娩が可能と考えられ、これらの部位の骨折が経腟分娩を回避する理由にはならないことが示唆された。一般的に帝王切開は安全であるものの、デメリットも考慮して慎重に検討する必要がある」と指摘している。また、「大腿骨近位部骨折後の早期には緊急帝王切開が目立ったが、正確な理由は不明で、さらなる研究が必要である」と付言している。
(小路浩史)