ノルウェー・University of BergenのAnthea Van Parys氏らは、安定狭心症患者における乳製品の摂取量と心血管イベントや死亡リスクとの関連を検証。これらのリスクは乳製品ごとに異なっていたとEur J Prev Cardiol(2022年9月22日オンライン版)に発表した。

安定狭心症患者1,929例が対象

 乳製品にはアミノ酸やカルシウム、ビタミンD、ヨウ素など、人間の生命維持に欠かせない栄養素が豊富に含まれる。一方で、LDLコレステロール(LDL-C)値上昇に関与する飽和脂肪酸やトランス脂肪酸も含まれることから、健康への影響を総合的に評価することは難しい。

 Van Parys氏らは今回、安定狭心症患者を対象に乳製品摂取量と心血管イベントや死亡リスクとの関連を検証した。対象は、1999~2004年にノルウェーの2施設において、ビタミンBの死亡抑制効果や心血管アウトカムへの影響を検証するプラセボ対照ランダム化比較試験Western Norway B-Vitamin Intervention (WENBIT)に登録された3,090例のうち、冠動脈疾患の疑いで冠動脈造影を行った18歳超で安定狭心症と診断された患者1,929例。乳製品摂取状況の確認に必要な食物摂取頻度調査に回答しなかった者、カロリー摂取が極端に多い/少ない者などは除外した。

乳製品の1日平均摂取量は1,000kcal当たり169gで、ミルクが133gと多い

 乳製品は、ミルクは高脂肪乳(全乳)、低脂肪乳、スキムミルクの他、シリアルなどに用いるミルクも含め、チーズはブラウンチーズ、ホワイトチーズ、プロセスチーズなどを含めた。1日当たりの乳製品摂取量はミルク、チーズ、ヨーグルト、クリーム、サワークリーム、アイスクリーム、バターの合計量とした。

 評価項目は、急性心筋梗塞(致死性および非致死性)、脳卒中(同)、心血管死、全死亡で、致死性冠動脈イベントは発症から21日以内の死亡と定義した。 主な患者背景は、男性が80%、平均年齢が61.8歳、既往歴は高血圧が47%、糖尿病が31%、現喫煙者が29%、治療薬は解熱鎮痛薬およびスタチンが約90%、β遮断薬が77%と、ほとんどの患者で薬物治療が行われていた。 乳製品摂取状況を見ると、1日の平均摂取量は1,000kcal当たり169gで、内訳はミルク133g、チーズ13.3g、ヨーグルト11.7g、クリーム、サワークリームおよびアイスクリーム8.05g、バター2.7gだった。

全乳製品摂取と急性心筋梗塞リスクは関連なし

 評価項目ごとに追跡期間の中央値は異なり、急性心筋梗塞は7.8年、脳卒中は5.2年、死亡は14.1年だった。イベント発生率はそれぞれ16%、3%、30%(心血管死は全体の13%)だった。

 解析の結果、1日摂取量(1,000kcal当たり)と急性心筋梗塞リスクについて、全乳製品(50gごと)またはミルク(50gごと)の摂取との関係を見たハザード比(HR)は、エネルギー摂取量、性、年齢、喫煙を調整したモデル1、これにBMIを加えて調整したモデル2のいずれも1.0と、有意な関連は認められなかった。全乳製品およびミルクの摂取と急性心筋梗塞リスクにはUカーブ現象が見られ、200gが最もリスクが低かった。その他、有意差はなかったものの、チーズ(10g)の摂取でリスク低下傾向が、バター(5g)の摂取でリスク上昇傾向が認められた。

 一方、モデル1においては、全乳製品の摂取により脳卒中(HR 1.14、95%CI 1.02~1.27、P=0.025)、心血管死(同1.06、1.00~1.12、P=0.041)、全死亡リスク(同1.07、1.03~1.11、P<0.001)は、有意に上昇し、モデル2での解析やミルクの摂取でもほぼ同様の結果を示して有意差が認められた。チーズの摂取ではこれら評価項目で有意差はなかったが、バターの摂取では全死亡リスクのみ上昇する傾向が認められた(モデル1:HR 1.10、95%CI 1.00~1.21、P=0.055、モデル2:同1.10、1.10~1.20、P=0.059)。

チーズの摂取で長期にわたり急性心筋梗塞リスクが低下

 また、各評価項目リスクと乳製品の関連を経時的に見ると、各リスクは追跡期間に依存していた。

 全乳製品およびミルク摂取と脳卒中リスクとの関連は最初の2年で大きかった。チーズの摂取について、急性心筋梗塞リスクにおける逆相関の関係は追跡期間が長くなっても持続し、脳卒中、心血管死、全死亡リスクにおける逆相関の関係は最初の3~5年で見られ、その後消失した。バター摂取との関連は、急性心筋梗塞リスクでは4年後から上昇し、全死亡リスクでは7年後から上昇した。

 以上の結果を踏まえ、Van Parys氏は「安定狭心症患者における心血管イベントや死亡リスクは、乳製品ごとに異なる可能性が示された。これらイベントのリスク評価の際、乳製品をひとくくりにするのではなく、個別に検証する必要がある」と述べている。

(編集部)