米・Massachusetts General HospitalのSteven J. Russell氏らBionic Pancreas Research Groupは、食事の際のインスリン投与量の補正が体重と食事の種類・量の入力のみで済むバイオニック膵臓システムと従来の半自動インスリン投与システム(Hybrid Closed-Loop;HCL)を比較する多施設非盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。バイオニック膵臓群でHbA1c値が有意に低下し、安全性は両群で同等だったことをN Engl J Med2022; 387: 1161-1172)に報告した。

従来機器と異なりカーボカウントを必要とせず

 現在利用可能な半自動インスリン投与システムは、使用開始時に個別化したインスリンレジメンを入力し、ルーチン操作としてカーボカウントに基づくインスリン用量などを入力する必要がある。

 一方、バイオニック膵臓(iLet Bionic Pancreas:Beta Bionics社、写真)は、使用開始時に体重を入力し、食事の際に種類(朝食・昼食・夕食など)と量(「普通」「多い」「少ない」)を入力するだけでカーボカウントを必要としない。システムが測定データを基に持続調整を行うため、利用者は投与量を調整できないが、従来機器と異なり利用者による入力からシステムの情報収集・投与量決定、自動投与開始までのタイムラグはない。

写真. iLet Bionic Pancreas

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(米国立衛生研究所プレスリリースより)

 Russell氏らは、米国の16施設で6~79歳の1型糖尿病患者をバイオニック膵臓でインスリンを投与するバイオニック膵臓群(219例)とリアルタイムCGMを用いてインスリンを投与する標準治療群(107例)に2:1でランダムに割り付け13週間追跡した。CGM機器には両群ともDexcom社のG6を用いた。

 主要評価項目は13週時のHbA1c値で、重要副次評価項目としてCGMの血糖値が54mg/dL未満となった時間の割合を評価した(非劣性マージンを1%ポイントと事前に定義)。

HbA1c値は7.9%から7.3%に低下

 検討の結果、HbA1c値はバイオニック膵臓群ではベースライン時の7.9%から13週時には7.3%に低下したが、標準治療群ではいずれも7.7%で変化がなかった。調整後の13週時の平均変化量の差は−0.5%ポイント(95%CI −0.6~−0.3%ポイント、P<0.001)だった。

 CGMによる血糖値が54mg/dL未満であった時間の割合には、両群で有意差を認めなかった(13週時の調整後の差0.0%ポイント、95% CI −0.1~0.04%ポイント、非劣性のP<0.001)。

 重症低血糖の発現は、バイオニック膵臓群が100人・年当たり17.7件、標準治療群が同10.8件だった(P=0.39)。糖尿病性ケトアシドーシスはいずれの群でも発生しなかった。

簡便な自動インスリン投与によるさらなる予後改善に期待

 Russell氏らは「成人および小児の1型糖尿病患者を対象とした13週間のRCTで、バイオニック膵臓の使用は標準治療と比べHbA1c値の有意な低下と関連していた」と結論。「バイオニック膵臓によりインスリンレジメンの事前決定やカーボカウント入力、利用者による投与量調節をせずに、食事量の入力のみで良好な血糖管理が達成できる利点」を強調している。

 米・Yale School of MedicineのJennifer Sherr氏は、同誌の付随論評(2022; 387: 1128-1129)で、バイオニック膵臓は対象を選ばず、唯一の条件が「1型糖尿病であること」を指摘。「検討は実臨床に近い条件で行われており、承認後は広く普及するだろう」と述べている。さらに、1型糖尿病患者の予後は改善されてきたものの、一般人口と比べればいまなお乖離があることに触れ、「バイオニック膵臓のような簡便な自動インスリン投与システムがこのギャップを埋める解決策になるかもしれない」と期待を寄せている。

(小路浩史)