これまでの研究で、インフルエンザワクチン接種が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に伴う入院や死亡などのリスク低下と関連することが示唆されている。カナダ・University of TorontoのHosseini-Moghaddam SM氏らは、同国オンタリオ州の地域住民228万例を対象にしたコホート研究を実施し、インフルエンザワクチン接種によりSARS-CoV-2感染が22~24%低下したとの結果を発表。一方で、定期健康診断(PHE)の受診の有無でSARS-CoV-2感染症の転帰に大きな差が生じたことから、PHE受診がワクチンの有効性に影響を及ぼした可能性があると、JAMA Network Open (2022; 5: e2233730)に報告した。
66歳以上の高齢者228万人を対象にしたコホート研究
研究は、オンタリオ州在住の66歳以上(女性54.2%)の高齢者292万2,449人のうち227万9,805人(平均年齢75.08歳)を対象とした。2つのコホート(19~20年および20~21年)において、前者では53.9%に当たる122万9,487人がインフルエンザワクチンを接種し、後者では57.8%に当たる126万6,939人が接種していた。
主要評価項目は、SARS-CoV-2感染、入院、死亡、入院/死亡の複合転帰とし、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、インフルエンザワクチン接種とSARS-CoV-2関連転帰との関連を評価した。
一方、ワクチンの有効性を評価する観察研究では、健康意識が高い人ほどワクチンを接種する傾向にあることから生じるhealthy vaccinee biasに注意する必要があるとされている。ワクチン接種者と非接種者では医療機関受診行動にも違いが生じることが報告されており、同研究ではプライマリケアでのPHE受診をhealthy vaccinee biasの指標としてSARS-CoV-2関連の転帰に及ぼす影響についても検討した。
インフルエンザワクチン接種でコロナ感染、入院、死亡リスク低下
まず、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて年齢や性別を調整して、インフルエンザワクチン接種とSARS-CoV-2関連転帰の関連を解析。ワクチン非接種者に比べ接種者のSARS-CoV-2感染、入院、死亡、入院/死亡の複合転帰の全てにおいてリスク低下が認められた。調整後ハザード比(aHR)の推移(19~20年→20~21年)を見ると、SARS-CoV-2感染は0.78(95%CI 0.73~0.84)→0.76(同0.74~0.78)、SARS-CoV-2感染に伴う入院は0.83(同0.74~0.92)→0.68(同0.64~0.72)、SARS-CoV-2感染による死亡は0.74(同0.62~0.87)→0.58(同0.53~0.63)、SARS-CoV-2感染に伴う入院/死亡の複合転帰は0.83(同0.74~0.92)→0.66(同0.63~0.70)だった。
今回の結果から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まった最初の2年間で、インフルエンザワクチン接種によりSARS-CoV-2感染のリスク低下幅が22%→24%に、入院リスクは17%→32%に、死亡リスクは26%→42%に、入院/死亡の複合転帰は17%→34%にいずれも拡大したことが判明した。なお、この結果は過去の研究報告と類似していた。
さらに、インフルエンザワクチンの2シーズン連続接種群、1シーズンのみ接種群(18~19年もしくは19~20年のいずれか)、2シーズンとも非接種群の4群に分けて、SARS-CoV-2関連転帰との関連も検討した。2シーズン非接種群と比べ連続接種群では、SARS-CoV-2感染、入院/死亡の複合転帰の発生リスクが有意に低かった(それぞれaHR 0.67、0.70)。一方、1シーズン(19~20年)接種群は2シーズン非接種群と比べSARS-CoV-2感染の発生率が低かった(aHR 0.91、95%CI 0.83~0.99)。
また、前年(18~19年)のPHE受診歴と翌年(19~20年)のSARS-CoV-2感染転帰の関連も検討。対象の15%に当たる34万2,800人がPHEを受診していた。PHE非受診者と比べ受診者では翌年のSARS-CoV-2感染、入院、死亡、入院/死亡の複合転帰の全てにおいて有意なリスク低下が認められた(それぞれ15%、21%、18%、20%低下)。
定期健康診断の受診の有無で、SARS-CoV-2関連転帰に大きな差
次に、インフルエンザワクチン接種者を対象にPHE受診の有無別にSARS-CoV-2関連転帰を比較検討した。その結果、SARS-CoV-2感染リスクはPHE非受診者で19%低下したのに対し受診者では38%低下と有意な低減が認められた。SARS-CoV-2感染による入院リスクの低下はPHE非受診者と受診者でそれぞれ14%、36%、死亡リスクの低下は22%、54%、入院/死亡の複合転帰のリスク低下は15%、34%と、いずれも受診者で大きく低減していた。
これらの知見を踏まえ、研究グループは「18~19年にPHEを受けた例では翌年(19~20年)にSARS-CoV-2感染のリスクは15%、入院リスクは21%、死亡リスクは18%低下するなど、PHEの受診歴によってSARS-CoV-2の転帰に大きな差が生じることが判明した」と結論。その上で、「66歳以上のPHEを受診している高齢者では、healthy vaccinee biasによりインフルエンザワクチン接種とSARS-CoV-2関連転帰との関連が部分的に修正される可能性がある」と述べた上で、「今回のコホート研究の結果がワクチン効果の研究に影響を及ぼすエビデンスになる」としている。
(山崎和也)