思春期の性的暴力被害がメンタルヘルスにどのような影響を与えるかについては、データが少ないという。英・University College LondonのFrancesca Bentivenga氏らは、同国の前向き研究データを解析し、思春期の性的暴力被害が1年後のメンタルヘルスに及ぼす影響について検討。結果をLancet Psychiatry2022年10月4日オンライン版)に報告した。

17歳時のデータ約1万例を解析

 青少年期におけるうつ病や不安障害、自傷行為などメンタルヘルスの問題は、男児・男性に比べ女児・女性で圧倒的に高率に起きている、とBentivenga氏ら。1つの理由として、性的虐待や性的暴行、セクシャルハラスメントなどの性的暴力による被害が挙げられるという。

 しかし、幼少期に受けた性的暴力が成人期のメンタルヘルスに及ぼす影響についてのデータは多く存在するが思春期についてはデータが乏しいとして、英国の大規模前向きコホート研究UK Millennium Cohort Studyのデータを解析した。2000〜02年の出生児を登録した同研究から、17歳(2018〜19年)時点で過去1年間の性的暴力被害およびメンタルヘルスに関するデータを有することなどを組み入れ条件とし、9,971例(男性4,852例、女性5,119例)を抽出した。

 性的暴力については、自己申告による過去12カ月における性的暴行や不快な性的接近の経験と定義した。精神的苦痛については、6項目からなるKessler Psychological Distressスケール(K6)を用いて過去30日間の抑うつおよび不安症状を評価した。K6スコアについては、各項目0(全くなし)〜4(ずっとあった)点で自己記入し、合計13点以上を深刻な苦痛と定義した。さらに、過去12カ月間の自傷行為および生涯の自殺企図経験についても評価した。

性的暴力被害者は自傷行為や自殺企図リスク高まる

 男女別に性的暴力を経験した被害群と未経験の対照群で各評価項目を比較した。その結果、男性では深刻な精神的苦痛の割合は対照群(4,589例)の9.5%(403例)に対し被害群(263例)は22.8%(71例)と高く、自傷行為(18.1% vs. 55.7%)および自殺企図(3.6% vs. 14.9%)も同様だった。女性では対照群(4,084例)、被害群(1,035例)で、各評価項目は男性と同様に被害群で割合が高かったものの、両群ともにその割合がより高かった(深刻な精神的苦痛:18.2% vs. 40.0%、自傷行為:22.4% vs. 52.7%、自殺企図:7.9% vs. 21.8%)。

 多変量線形回帰モデル(精神的苦痛)およびポアソン回帰モデル(深刻な精神的苦痛、自傷行為、自殺企図)を用いて、対照群と比べた被害群のメンタルヘルスのアウトカムを男女別に求めた。その結果、男性(平均差 2.56、95%CI 1.59〜3.53)、女性(同2.09、1.51〜2.68)ともに精神的苦痛は被害群で割合が高かった。

 深刻な精神的苦痛リスク〔リスク比(RR):男性1.55、95%CI 1.00〜2.40、同:女性1.65、1.37〜2.00〕、自傷行為リスク(同2.16、1.63〜2.84、同1.79、1.52〜2.10)、自殺企図リスク(同2.73、1.59〜4.67、同1.75、1.26〜2.41)も、いずれも対照群に比べ被害群で高かった。

 以上から、Bentivenga氏らは「思春期の性的暴力被害はその後のメンタルヘルスの大きな負担となることが示唆された」と結論。「現時点で重要視されず、あまり研究されていないこの問題について、メンタルヘルス領域での研究や臨床現場、政策決定におけるさまざまな取り組みの必要性が明らかになった」との見解を示している。

松浦庸夫