この10年間で、厳格降圧による高齢高血圧患者の心血管疾患に対する有益性のエビデンスが相次いで示されている。しかし米国において、こうした患者への厳格降圧の実態は不明だった。米・Beth Israel Deaconess Medical CenterのNicholas Chiu氏らは、60歳以上の同国の高血圧患者を対象に米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)などの高血圧ガイドラインに基づく厳格降圧の実態を検証。2008~18年に厳格降圧が行われていなかった割合は、経時的に増加傾向にあったとHypertension2022年9月16日オンライン版)に発表した。

SPRINT試験、STEP試験で厳格降圧による心血管疾患の予防効果

 米国では成人の45.4%が高血圧を有し、高齢者で有病率が上昇していることから高齢者高血圧に対する降圧管理の重要性が高まっている。高齢者の血圧管理目標値に関しては、①ACC/AHAガイドライン:65歳以上には収縮期血圧(SBP)130mmHg未満を推奨、②欧州心臓病学会(ESC)ガイドライン:65歳以上80歳以下に140mmHg未満を推奨、③米国内科学会(ACP)/米国家庭医学会(AAFP)ガイドライン:60歳以上に150mmHg未満を推奨―で勧告の内容が異なる。

 しかし近年、高齢者高血圧に関するSPRINT試験(関連記事「降圧目標が変わる! AHA2015でSPRINT試験発表」)およびSTEP試験(関連記事「高齢者の降圧目標めぐる論争に決着」)の成績が発表され、厳格降圧が高齢患者の心血管疾患イベント抑制に有益であることが示されている。

 Chiu氏らは、米国での高齢高血圧患者の外来管理として、各ガイドラインに基づく降圧薬の増量が適切に行われている割合などを含む過去10年間の状況を評価した。

 対象は、全米外来診療調査(NAMCS)における2008~18年のカルテデータのうち、クリニックで血圧測定を行った60歳以上の高血圧患者。前述の3つのガイドラインで推奨されている高齢者の血圧目標値に基づく厳格降圧を行った割合を、ガイドライン別コホートでそれぞれ求めた。

降圧薬追加の割合は7.9%

 ACC/AHAガイドラインコホートにおいて厳格降圧を要する粗受診回数は7,404回〔加重訪問回数2億9,376万5,683回に相当、男性38.8%、平均年齢76.0歳、平均SBP 143.7mmHg、脳血管障害(CVA)/一過性脳虚血発作(TIA)5.4%、2型糖尿病29.3%、脂質異常症56.4%〕。2008~18年に同ガイドラインに基づく厳格療法が適切に行われた割合は11.1%(95%CI 9.8~12.5%)で、新規に降圧薬の投与が開始されたのは16.5%(同13.5~20.0%)だった。既に1種類以上の降圧薬で治療中の患者への薬剤追加は7.9%(95%CI 6.7~9.3%)であった。

 厳格降圧の割合は、2008~09年の13.6%(95%CI 15.6~28.7%)から2015~18年には10.4%(同10.9~26.4%)へと減少していた。 ESCガイドラインコホートで厳格降圧を要する粗受診回数は3,032回(加重訪問1億1,546万7,670回に相当、男性40.9%、平均年齢72.3歳、平均SBP 151.3mmHg、CVA/TIA 4.8%、2型糖尿病31.7%、脂質異常症57.0%)。同コホートでも、ACC/AHAガイドラインコホートと同様に、厳格降圧が施行された割合はこの10年間で減少し、2008~09年の16.9%(95%CI 13.5~21.0%)から2015~18年には12.5%(同7.4~20.3%)へと減少していた。

「適切な治療強化の改善に向け連携し努力すべき」

 ACP/AAFPガイドラインコホートで厳格降圧を要する粗受診回数は2,683回(加重訪問1億49万3,614回に相当、男性38.3%、平均年齢73.6歳、平均SBP 161.7mmHg、CVA/TIA 5.5%、2型糖尿病30.5%、脂質異常症50.3%)。2008~18年に同ガイドラインに基づいて厳格降圧が行われたのは18.9%(95%CI 16.2~22.0%)で、2008~09年の24.7%(同20.2~29.0%)から2015~18年には14.9%(同9.0~23.7%)へと減少していた。

 さらに、65~80歳をSBP 150mmHg未満に降圧する包括的コホートを設定〔厳格降圧を要する粗受診1,495回(加重訪問5,382万8,341回に相当)、男性40.4%、平均年齢72.3歳、平均SBP 161.2mmHg、CVA/TIA 5.0%、2型糖尿病32.9%、脂質異常症54.1%〕を解析した結果、厳格降圧は10年間で19.8%(95%CI 16.7~23.3%)に行われていた。しかし、厳格降圧の施行割合は経時的に低下する傾向が見られた(オッズ比0.93、95%CI 0.87~1.00、P=0.07)。

 以上の結果を踏まえ、Chiu氏らは「高齢者の心血管疾患に対し、厳格な血圧管理の有用性を示すエビデンスが増えているにもかかわらず、この10年間で適切な治療強化が行われているとは言い難い」と指摘。「臨床現場では、高齢者高血圧への適切な治療強化の改善に向けて連携する努力をすべき」と付言している。

(田上玲子)