水際対策を大幅に緩和した岸田文雄首相の政治判断は、他の先進7カ国(G7)に比べて遅れた。昨年11月に外国人の入国停止を打ち出し、厳しい対策を求める世論に評価された「成功体験」を引きずったためだ。自民党内からは「3カ月は早くできた」(長老)などと、首相への不満が出ている。
 首相は11日、公明党の山口那津男代表と首相官邸で昼食を共にした際、「大いにインバウンド(訪日客)が増えて観光、宿泊、飲食が振るうよう期待する」との認識で一致した。
 首相は昨年11月、欧州で変異株「オミクロン株」が確認された直後に外国人の原則入国停止を表明した。「批判は私が全て負う覚悟だ」と大見えを切ってみせた首相に世論は好感し、内閣支持率は軒並み上昇した。首相の念頭には、コロナ対応で「後手」批判を受け支持率を下げた菅前政権があったのは間違いない。
 だが、成功体験は対策緩和には足かせとなった。昨年末に国内でもオミクロン株が広がり、経済界は「対策の意味が薄れた」として見直しを要望。首相は慎重な姿勢を崩さず、新規感染者数が下落へ転じた後の3月1日に入国者上限を5000人、同14日に7000人、4月10日に1万人と段階的に緩和。外国人の団体旅行を認めたのは6月に入ってからだった。
 政府は11日、入国時検査も原則撤廃した。だが、G7では既に5月の段階で米英両国とドイツ、イタリアが免除している。
 関係者によると、半年前の4月22日に首相と会談した菅義偉前首相は、インバウンドと観光需要喚起策「Go To トラベル」の再開を提案したが、首相は「かたくなな態度」だったという。出入国在留管理庁幹部も「首相官邸は慎重だった。引き締める方を高く評価されたのでずるずるいってしまった」と証言した。首相は11日に始まった「全国旅行支援」についても、夏の参院選前後の開始は見送った。
 影響は経済界だけではない。留学生は今春から優先的に受け入れるようになったが、国際教養大(秋田市)の担当者は「判断が遅かった。待ちきれずに他国へ行ったケースもある」と指摘。東京外国語大(東京都府中市)の関係者は「今後も優秀な留学生が来てくれるのか。行政には長期的に目配りしてもらいたい」と訴えた。 (C)時事通信社