新型コロナウイルス対策の水際規制が11日、大幅緩和された。円安による割安感も追い風に、激しく落ち込んだインバウンド(訪日客)消費回復への期待が高まっている。岸田文雄首相は訪日観光消費について、「速やかに(年間)5兆円超」達成を目指すとしており、政府がコロナ前から目指した「観光立国」実現への仕切り直しとなる。ただ、回復の鍵を握る中国との往来回復には時間を要しそうだ。
◇空港に訪日客続々
「制限撤廃をずっと待っていた」「緩和に合わせて予約した」。11日早朝の羽田空港には、東南アジアやオーストラリアなどからの旅行客が続々と到着。日本行きを待ちわびていた人も多く、喜びの声が聞かれた。
緩和では入国者数の上限を撤廃。個人旅行やビザなし渡航も再開され、2019年までのコロナ前に近い状況に戻った。全日本空輸や日本航空では、海外発を中心に国際便予約が急増している。
コロナ禍の打撃が深刻だった観光地にも歓迎ムードが広がる。東京・浅草の飲食店店員の男性は11日、「ようやく、どうやって商売するかを考えられる」と安堵(あんど)の表情を見せた。一方、浅草寺を訪れた米国人男性(28)は「円安は素晴らしい。たくさん買い物できる」と強調。円安も消費を後押ししそうだ。
百貨店業界も対応を進めている。松屋銀座(東京)は約80言語対応の音声翻訳機を社員に配備。そごう・西武は今月から成田・羽田両空港で割引クーポンを配布している。伊勢丹新宿店では来月下旬ごろから免税カウンターの人数や面積を拡充する方針だ。
◇中国ゼロコロナ足かせに
訪日客数はコロナ前の19年には3188万人、消費額は4兆8135億円にまで増加。政府は30年にフランスやスペイン、米国などに次ぐ6000万人へと訪日数を増やす目標も掲げてきた。しかし、コロナ禍で21年は25万人に減少。急ブレーキがかかっていただけに、政府は「インバウンドの本格的な回復、拡大を実現したい。節目の日だ」(斉藤鉄夫国土交通相)と意気込む。
ただ、消費全体の約4割を占めた中国・香港からの訪日客は、同国政府の「ゼロコロナ政策」で急回復は見通せない。民間企業には「(緩和の)業績への押し上げ効果は限定的」(高島屋の村田善郎社長)と慎重姿勢も出ている。本格的な観光立国実現に向けても、訪日客増加に伴って、混雑や騒音などで地元住民が迷惑を被るオーバーツーリズム(観光公害)のほか、観光関連での雇用確保など乗り越えるべき課題は少なくない。 (C)時事通信社
「観光立国」仕切り直し=円安追い風、訪日消費に期待―中国回復には時間も・新型コロナ水際緩和

(2022/10/11 19:15)