米・University of California, San DiegoのSiddharth Singh氏らは、デンマークの全国患者登録データから特定した50歳以上の炎症性腸疾患(IBD)患者754例を対象に、抗α4β7インテグリン抗体薬ベドリズマブと腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬の有効性および安全性を比較。その結果、TNF阻害薬に比べてベドリズマブは治療失敗リスクが高く、安全性の面で優位性が示されなかったとJAMA Netw Open(2022; 5: e2234200)に発表した。
入院と腹部大手術のリスク上昇、ステロイド処方は差なし
対象は、50歳以上でIBDと診断されベドリズマブまたはTNFα阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)による治療を開始した患者。傾向スコアマッチングを用いて患者、疾患、治療に関連する因子を1:1でマッチングし、ベドリズマブ群377例(平均年齢61.2歳、女性53.6%、クローン病46.9%)とTNFα阻害薬群377例(同61.3歳、54.6%、48.3%)の計754例(60歳以上48.4%)を解析に組み入れた。
有効性の主要評価項目は治療失敗〔治療開始後6週以降のIBD関連入院、IBD関連手術(腸管切除術、結腸切除術、ストーマ造設を含む腹部大手術)、ステロイド薬の新規処方の複合〕とした。安全性の主要評価項目は重篤な感染症(入院を要する感染症など)とした。
解析の結果、TNFα阻害薬群と比べてベドリズマブ群では治療失敗の1年リスクが31%有意に高かった〔34.7% vs. 45.4%、調整後ハザード比(aHR)1.31、95%CI 1.02~1.69、P=0.03〕。
治療失敗の内容別の解析でも、TNFα阻害薬群と比べてベドリズマブ群ではIBD関連入院(1年リスク16.3% vs. 27.8%、aHR 1.48、95%CI 1.03~2.15、P=0.01)、IBD関連手術(同8.0% vs. 21.3%、2.39、1.45~3.94、P<0.001)のリスクがいずれも有意に高かった。一方、ステロイド薬の新規処方リスクには有意差がなかった(同24.0% vs. 28.4%、1.24、0.91~1.68、P=0.18)。
クローン病患者で治療失敗リスク77%上昇
IBDの病型別のサブグループ解析では、クローン病患者における治療失敗リスクはTNFα阻害薬群と比べてベドリズマブ群で77%高かったが(aHR 1.77、95%CI 1.21~2.58)、潰瘍性大腸炎患者におけるリスクには両群で有意差がなかった(同1.04、0.75~1.43、サブグループ間の交互作用のP=0.03)。
重篤な感染症のリスクについては、TNFα阻害薬群とベドリズマブ群で有意差がなかった(1年リスク8.7% vs. 8.2%、aHR 1.04、95%CI 0.58~1.85)。同様の結果がIBDの病型、治療開始時の年齢、性、単剤療法か他の免疫調節薬との併用療法かで層別化したサブグループ解析でも一貫して認められた。
以上を踏まえ、Singh氏らは「50歳以上の高齢IBD患者において、TNFα阻害薬と比べてベドリズマブは治療失敗リスクが高く、クローン病患者で特にリスクが高かった。一方、重篤な感染症のリスクは両薬で差がなく、安全性の点でベドリズマブに優位性は認められなかった」と結論。「効果の予測バイオマーカーがない現状で、高齢クローン病患者(特に合併症リスクが高い患者)にはベドリズマブよりTNFα阻害薬の方が適している可能性が示唆された」と付言している。
(太田敦子)