信州大学精神医学教室准教授の篠山大明氏らの研究グループは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて日本における2010~19年度の注意欠陥・多動性障害(ADHD)発症率の推移を調査するコホート研究を実施。発症率は2010年度と比べ2019年度には小児で2.7倍、青年で2.5倍に増え、20歳以上の成人では21.1倍と、著明に増加していたことをJAMA Netw Open2022; 5: e2234179)に報告した。

成人で女性の発症率の増加が顕著に

 ADHDは小児期に多い神経行動学的障害の1つだが、約半数は成人期まで持続する。しかし、成人のADHDは障害としての認知が十分でなく、過小診断されることも少なくない。

 篠山氏らがNDBを用いて検討した結果、2010〜19年度に83万8,265例が新たにADHDと診断された。内訳は0〜6歳の小児が12万1,278例〔女児2万3,292例(19.2%)、男児9万7,986例(80.8%〕、7〜19歳の青年が38万1,753例〔女性9万1,891例(24.1%)、男性28万9,862例(75.9%)〕、20歳以上の成人は33万5,234例〔女性16万239例(47.8%)、男性17万4,995例(52.2%)〕で、小児や青年に比べて成人では女性の割合が多かった。

 また、ADHDの新規発症率は2010年度から2019年度にかけて大きく上昇しており()、年間発症率は2010年度に比べて2019年度には小児で2.7倍(女児2.9倍、男児2.7倍)、青年で2.5倍(女性3.7倍、男性2.2倍)に増加し、成人では21.1倍(女性22.3倍、男性20.0倍)に達していた。

図. 2010〜19年度における日本のADHD発症率

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JAMA Netw Open 2022; 5: e2234179)

DSM-5や治療薬の承認が影響か

 このようなADHD発症率の上昇の一因として、2013年に発刊された『精神疾患の分類と診断の手引 第5版(DSM-5)』の影響が考えられる。篠山氏は「『国際疾病分類第10版(ICD-10)』に基づくとADHDと自閉症スペクトラム障害(ASD)の二重診断はできないが、DSM-5ではADHDとASDの複合的な診断が可能になったため、医師がASD症例にADHDの診断を追加し、ADHD治療薬を処方するようになった可能性がある」と指摘している。

 特に、2012年から2017年にかけて成人のADHD発症率が著明に上昇している点について、同氏は「日本における成人ADHDの診断感度の向上および、2012年に成人に対するADHD治療薬としてアトモキセチンが承認されたことが寄与した可能性がある」と指摘。また、成人では2018〜19年にプラトーに達しているが、「この数値は2016年に米国で報告されたアジア人成人のADHD発症率(6.88人/1万人・年)と同等であり、日本のADHDの検出感度が標準に達した考えられる」と付言している。

(菅野 守)