長期透析患者の約10人に1人が、特有の合併症である透析アミロイドーシスを発症する。β2ミクログロブリン(β2MG)のアミロイド線維が原因であることが示されているものの、どのような患者の体内でアミロイド線維ができやすく、発症しやすいのかは予測できなかった。大阪大学国際医工情報センター特任研究員の中島吉太郎氏、特任教授の後藤祐児氏、新潟大学医歯学総合病院准教授の山本卓氏らの研究グループは、透析患者などの血清検体を用いて独自に開発したアミロイド誘導装置HANABI-2000の実験を行った。その結果、血清アルブミンが減少することでβ2MGのアミロイド線維が形成されやすくなることを解明したとNat Commun2022; 13: 5689)に発表した。

透析直後はアミロイドーシスのリスクが低い

 日本では慢性腎不全治療のために約35万例(国民の約380人に1人)が透析を受けており、世界でも有数の「人工透析大国」である。透析は終生続ける必要があり、導入から15年ほどで約10人に1人が透析アミロイドーシスを発症し、手首や関節の強い痛みや運動障害などの症状が現れる。

 透析アミロイドーシスの発症リスクは、血中β2MG濃度の上昇および透析期間の長期化に伴い高まる。これらの患者が必ずしも発症するわけではないが、事前に発症リスクを予測し、予防を講じる上での指標が望まれている。しかし、β2MG濃度上昇や透析期間の長期化に基づく発症の予測は困難であり、未知の危険因子の存在が想定されている。

 研究グループは、HANABI-2000を用いて透析患者などから採取した100検体以上の血清を分析、透析アミロイドーシスの新たな危険因子を探索する研究を行った。HANABI-2000は超音波により蛋白質溶液を刺激し、蛋白質の過飽和状態を壊して短時間でアミロイド形成を一斉に引き起こすことができる(図1)。

図1. 患者検体(色の違い)に応じたアミロイド形成リスクの研究が可能

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 まず、健康人と透析患者各30例の血清検体を分析したところ、健康人群に比べて透析患者群では、体内でアミロイドが形成されやすい環境にあることが分かった(図2-A)。次に透析患者28例の血清を透析治療前後に採取し比較した結果、透析直後にはアミロイド量が減少し、アミロイドーシスのリスクが低い状態であった(図2-B)。

図2. 実験結果の模式図

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(図1、2とも新潟大学プレスリリースより)

栄養維持による予防の可能性

 さらに研究を進めたところ、血清アルブミンがβ2MGと結合してアミロイド形成を阻害していることが示された。

 研究グループは「血清アルブミンは"マクロモレキュラークラウディング(高分子混み合い)"効果によって血中蛋白質の恒常性の維持に関わっている」と考察している。

 以上を踏まえ、研究グループは「血清アルブミンの減少がβ2MGのアミロイド線維形成を促進し、透析アミロイドーシスの発症リスクを高めることが示唆された」と結論。「血清アルブミンは栄養状態を示す指標でもあるため、透析患者では栄養維持により透析アミロイドーシスを予防できる可能性がある。今回の知見が透析合併症の根絶に貢献することが期待される」と付言している。

(小野寺尊允)