【ワシントン時事】バイデン米政権は12日に発表した「国家安全保障戦略」で、気候変動や食料・エネルギー不足、新型コロナウイルスのような感染症などを「国境をまたぐ共通の戦略的課題」に挙げた。経済重視で地球温暖化対策を軽視したトランプ前政権とは様変わりした。
 安保戦略は、気候変動について「すべての国の存続に関わる可能性を秘めている」と明記。コロナ禍に関しても「大規模戦争のような破壊力を持つ」と表現した。
 気候変動をめぐっては、オバマ政権(2009年1月~17年1月)が「国家安全保障上の脅威」と明言して対応に尽力してきた。ところが後を継いだトランプ前大統領は「科学的根拠がない」と主張し、自身の政権の安保戦略から除外した経緯がある。
 ただ、バイデン政権は「国境をまたぐ共通の戦略的課題」を列挙したものの、包括的な解決の道筋までをも提示したわけではない。中国を筆頭に主要国間の地政学的な競争の激化が「共通の課題に取り組むことができる状況を変化させ、しばしば複雑にしている」(安保戦略)ためだ。
 サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は12日、ワシントンで行った講演で「国境をまたいだ課題の解決に(主要国間の)競争を利用する方法を模索すべきだ」と指摘。新たに生み出される技術革新が問題解決に役立つ「突破口」になる可能性に期待を示した。
 一方で、バイデン政権の安保戦略は、発足当初から掲げる「民主主義国家対専制主義国家」の二項対立を前提にしている。こうした思考はトランプ氏の政策にはなく、対立をより先鋭化させている印象を拭いきれない。
 サリバン氏は今後10年間を「紛争と不和の時代」にしない方策として米国の国力の増強や同盟・友好国との関係強化の重要性を訴えている。だが、その結果として中国やロシアにどのような形で打ち勝つのか。さらに一連の課題は解決できるのか。安保戦略は語っていない。 (C)時事通信社