心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーション(アブレーション)では、数日間の入院が一般的だが、当日退院(日帰り)のプロトコルを採用している施設もある。医療資源の利用が少なく済むため、弊害がないのであれば入院期間の短縮は望ましいと考えられる。カナダ・University of British ColumbiaのMarc W. Deyell氏らは、アブレーションの当日退院の有効性、安全性などを検証。当日退院の可否やアブレーションの種類で有効性や安全性に有意差は認められなかったとEuropace(2022年9月27日オンライン版)に発表した。
対象はアブレーション連続患者421例
カナダのSt. Paul's Hospitalでは2005年から、Vancouver General Hospitalでは2010年から、当日退院がAF患者に対するアブレーションの標準のプロトコルとなっており、治療困難が予想される症例や社会的支援が得られない症例を除くと、ほとんどがアブレーション施行当日に退院している。今回の対象は、2018~19年に両施設においてアブレーションを施行され、術後入院や救急治療室(ER)入室のデータが入手できた19歳以上の連続症例427例とした。
評価項目は、有効性評価項目としてアブレーション施行当日の退院率、安全性評価項目としてアブレーション後30日以内における死亡、脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)または塞栓症、入院を伴う出血の複合、その他医療資源の有効利用を評価するためアブレーション後30日以内の入院率およびER入室率を検証した。 427例のうち6例(1.4%)は、退院時のサポートをする介護者がいないため事前に計画して宿泊し、残る421例が当日退院予定に該当した。
全体(421例)の主な患者背景を見ると、クライオアブレーションが19.5%(クライオ群82例)、高周波アブレーションが80.5%(RF群339例)で、クライオ群ではRF群と比べ発作性AFが多く(80.5% vs. 50.7%、P<0.001)、アブレーション再施行率(1.2% vs. 32.4%、P<0.001)や心不全合併率(11.0% vs. 29.8%、P=0.001)が低く、左室駆出率50%未満(7.3% vs. 18.0%、P=0.017)が少なく、手技時間の中央値(138分 vs. 211分、P<0.001)が短く、手技終了時刻は9:00~12:59(46.3% vs. 31.0%)と13:00~15:59(31.7% vs. 28.3%)が多く、16:00以降(22.0% vs. 40.7%)は少なかった(P=0.004)。
90%超がアブレーション施行当日に退院
全体のうち、当日退院した割合は90.5%で、クライオ群では95.1%、RF群では89.4%だった。アブレーション後に入院した主な理由として、術中合併症(クライオ群1.2% vs. RF群2.9%)、終了時刻が遅い(同0% vs. 2.9%)、穿刺部の出血(同2.4% vs. 1.2%)などが挙げられた。
当日退院できなかったことに関連する因子を調べると、うっ血性心不全または左心室機能不全が抽出され、多変量解析を行っても有意な危険因子として認められた〔調整オッズ比(aOR)2.08、95%CI 1.02~4.17、P=0.044〕。その他、発作性AFまたは持続性AFなど、ベースライン時の背景因子に有意差は認められなかった。アブレーションの種類にも有意差は認められなかったが、手技変数のうち、手技終了時刻が16時以降は非当日退院の独立した関連因子として抽出された(aOR 6.25、95%CI 2.04~20.00、 P=0.002)。
なお、プロトコルではアブレーションの終了時刻が16時を過ぎても必ずしも一晩入院する必要はなく、16時以降に終了となった患者のうち、81.7%は当日退院していた。
非当日退院と再入院率に差はないが、ER入室率は高い
医療資源の有効利用を評価するアブレーション後30日以内の再入院は4.8%に認められ、原因は多い順に心房性不整脈の再発(31.8%)、心膜炎(13.6%)、穿刺部の合併症、徐脈、心不全を伴わない息切れ(各9%)だった。
一方、アブレーション後30日以内のER入室率は高く、26.1%に認められた。そのうち18.2%がアブレーションと無関係と診断され、アブレーションと関連があるとされたものの原因は、多い順に心房性不整脈(32.7%)、胸痛/心膜炎(14.6%)、徐脈など他の不整脈(10.9%)、穿刺部の出血(9.1%)であった。ER入室または再入院までの中央値は8日で、3.8%が24時間以内に、22%が48時間以内に、46%が7日以内にそれぞれ発生していた。
これらをアブレーションの種類別に見ると、RF群(5.0%)とクライオ群(3.7%)で再入院率に有意差はなく(未調整のP=0.587)、ER入室率についても同様に有意差はなかった(それぞれ25.7%、28.0%、P=0.714)。
当日退院、非当日退院別では、再入院率(4.5% vs. 7.5%、P=0.390)に有意差はなかったが、ER入室率(24.7% vs. 40.0%、P=0.036)は当日退院で有意に低かった。
また、安全性評価項目は0.47%(4例)に発生し、その全てがRF群の当日退院患者で発生していた。内訳として、治療介入が必要な穿刺部出血合併症が2例(24時間以内と8日目各1例)、その他は心嚢液貯留(8日目)、食道房室瘻と診断され、外科的治療に成功(13日目)が各1例で、退院後30日以内の死亡または脳卒中/TIAは認められなかった。
以上の結果を踏まえ、Deyell氏は「AFアブレーション後の当日退院は大多数の患者において実現可能であり、アブレーションの種類によって有効性や安全性、医療資源の有効利用に有意差はなかった」と述べている。一方で、当日退院症例のER入室率は退院のタイミングにかかわらず高かったため、「その点については改善の余地がある」と指摘している。
(編集部)