東京医科歯科大学大学院国際健康推進医学分野教授の藤原武男氏の研究グループは、同大学救急救命センター、集中治療部、臨床検査医学分野、画像診断・核医学分野との共同研究で、2020年4月~21年11月に同大学病院の集中治療室(ICU)に入院し、副腎皮質ステロイド投与を受けた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者168例を対象に、レムデシビルの投与タイミング別に非投与例と予後を解析。発症から9日以内のレムデシビル投与は非投与と比較して死亡リスクを90%減少させたとJ Med Virol(2022年9月23日オンライン版)に発表した。
日本の重症COVID-19患者の生存率は良好
COVID-19患者に対するレムデシビルの有効性は幾つかの大規模臨床試験で検証され、回復までの期間を短縮する効果が報告されているが、死亡リスク抑制効果は示されていない。しかし、発症早期にレムデシビルを投与された例では死亡リスクが抑制される可能性が示唆されていた。
これまでのレムデシビルの臨床試験の主な対象は、人工呼吸器装着例を主な対象としておらず、人工呼吸器や体外式膜型人工肺 (ECMO) を必要とする比較的少数例に絞った解析では、レムデシビルの回復期間短縮効果が見られなかった。全国のICUの情報共有システムであるCRISISによると、人工呼吸器やECMOを必要とする重症COVID-19患者の生存率は他国に比べて良好で、第1~5波における死亡率の変動が小さいことから、重症患者への医療の質は流行時期によらず比較的保たれていたとされる。そこで、藤原氏らは、集中治療を要したCOVID-19患者に対して実際に行われた診療や治療を振り返って、レムデシビルの効果を検証した。
対象は、2020年4月~21年11月 (第1~5波) に東京医科歯科大学病院のICUで治療を受け、副腎皮質ホルモンの投与を受けたCOVID-19患者168例。レムデシビルは投与されるタイミングが重要なことが過去の研究で示唆されていたため、発症から9日以内の投与例(96例)と10日目以降の投与例(37例)に分け、非投与例(35例)と死亡リスクを比較した。
入院死亡率は非投与例45.7%に対し、9日以内投与10.4%、10日以内投与16.2%
全体のうち、78%が観察開始日(入院日または発症日どちらか遅い日)に高流量酸素または人工呼吸器による治療を受けていた。全期間における院内死亡率は19.0%(32例)で、流行期間別の差はなかった。レムデシビル非投与例の死亡率は45.7%だったのに対し、発症から9日以内のレムデシビル投与例の死亡率は10.4%で、発症から10日目以降の投与例では16.2%だった。
併存疾患数、入院日、腎機能障害、肝機能障害、酸素需要量、胸部CTによる肺障害の程度を調整し、レムデシビル非投与例を参照とした発症から9日以内のレムデシビル投与例における院内死亡のハザード比(HR)は0.10(95%CI 0.025~0.428)で、リスクは90%低下していた。一方、発症から10日目以降のレムデシビル投与例のHRは0.42(95%CI 0.12~1.52)と、レムデシビルによる有意な死亡抑制効果は認められなかった。
以上の結果について、同グループは「過去の臨床研究ではアジア人以外の人種が多く含まれていたが、今回は日本人がほとんどのデータであり、また、過去の臨床研究では主要なターゲットではなかった人工呼吸器やECMOが必要な症例が対象だったことから、アジア人種および重症患者において、実臨床でのレムデシビルの効果を示すことができた点で意義がある」と述べている。
(編集部)