妊婦の肥満は児の心血管代謝リスクや余命短縮との関連がある。英・King's College LondonのPaul D. Taylor氏らは、肥満妊婦への生活習慣介入が児の心血管リスクに及ぼす影響を検討、結果をInt J Obes(2022年10月12日オンライン版)に報告した。
妊婦のBMIおよび生活習慣介入の有無別に3歳時の心臓を評価
英国では妊婦の半数以上が過体重または肥満であり、肥満は合併症および死亡リスクを上昇させる。また、母親のBMIと児の体脂肪量には独立した関連が見られることから、世界的な肥満児の増加は母親の肥満の影響によるものではないかとの指摘もあるという。さらに、肥満女性から生まれた1〜25歳の児における心血管疾患(CVD)リスクの増加が、コホート研究により明らかにされている、とTaylor氏ら。
そこで同氏らは、16歳以上でBMI 30以上の肥満妊婦1,555例に対する多施設共同ランダム化比較生活習慣介入研究UPBEAT(UK Pregnancies Better Eating and Activity Trial)のデータを用い、肥満妊婦への生活習慣介入が児の心血管リスクに及ぼす影響を検討した。生活習慣介入は専門家の指導により、血糖値を上昇させる食品や飽和脂肪酸の摂取量を減らすことと、運動量を増やすことを8週にわたり実施した。
解析対象は、UPBEATに参加し生活習慣介入を受けた母親(介入群)と標準ケアを受けた母親(標準ケア群)および3歳時まで追跡できたその児と、UPBEAT開始前に出産した通常妊婦(BMI 20〜25、対照群)と児の母子計122組。児は、3歳時に血圧の他、心エコー検査により心機能を、心電図検査により心臓容積や頸動脈内膜中膜複合体厚、心拍変動(HRV)を評価した。
妊婦の主な背景は次の通り。出産時平均年齢は対照群(52例)32.6歳、介入群(31例)31.8歳、標準ケア群(39例)33.2歳、平均BMIは順に22.7、36.1、34.8、喫煙者は6例、1例、1例。同様に各群の母親から出生した児の主な背景は男児が20例、16例、17例、平均出生体重が3,464g、3,399g、3,439g、平均在胎期間は282.33日、277.81日、278.96日だった。
通常ケア群の児で左室リモデリング、介入群の児では回避
3歳時の心臓を評価した結果、対照群の児と比べ標準ケア群の児では心室中隔(IVS:平均差0.04cm、95%CI 0.018〜0.067cm)および後壁(PW:同0.03cm、0.006〜0.062cm)がより厚く、相対的壁肥厚(RWT:同0.03cm、0.01〜0.05cm)が認められた。また、早期拡張機能障害を示す最小心拍数の上昇(平均差7bpm、1.41〜13.34bpm)およびHRV解析による交感神経活動の亢進が確認された。さらに、求心性左室リモデリングを示す左室心筋重量(LVM)高値〔左室心筋重量係数(LVMi):平均差3.96g/㎡、95%CI 1.36〜6.57 g/㎡〕およびLVM/拡張末期容積(EDV)比の上昇(LVM/EDV比:同0.95g/mL、0.01〜0.17g/mL)が示された。
一方、介入群の児ではこれらの心臓リモデリングが回避された〔介入効果の平均差:IVS −0.03cm(95%CI −0.05〜−0.008cm)、PW −0.03cm(同−0.05〜−0.01cm)、RWT −0.02cm(同−0.04〜−0.005cm)〕。
以上から、Taylor氏らは「妊婦の肥満と3歳時における求心性左室リモデリングとの関連は、生活習慣介入により回避できる可能性が示唆された」と結論。研究の限界としてサンプルサイズが小さく選択バイアスがかかっている可能性に言及しつつも、母子の詳細なデータおよび幅広い項目における児の心臓評価を本研究の最重要ポイントに挙げている。
(松浦庸夫)