米・Harvard Medical SchoolのMatthew M Heeney氏らは、鎌状赤血球症(SCD)の小児患者193例を対象に、P2Y12阻害薬チカグレロルの有効性と安全性を第Ⅲ相国際二重盲検並行群間プラセボ対照ランダム化第Ⅲ相比較試験HESTIA3で検討。チカグレロルの経口投与(中央値296.5日間)では、プラセボと比べて疼痛発作/急性胸部症候群(ACS)の複合と定義した血管閉塞性クリーゼ(VOC)の発生率に有意差はなかったとBlood(2022; 140: 1470-1481)に発表した。有効性が証明できなかっため、同試験は予定より4カ月早い2020年6月に終了した。

DOVE試験では血小板阻害が不十分  

 SCDは常染色体劣性の遺伝性血液疾患で、βグロビン遺伝子が変異し、脱酸素化したヘモグロビンS(HbS)の重合が起こることで赤血球を鎌状にゆがめ、VOCと溶血性貧血の病態に関与すると考えられている。世界では年間推定30万~40万例のSCDの新生児が生まれている。

 SCDでは血小板活性化が亢進し、血管閉塞イベント中に血小板がさらに活性化されるため、抗血小板療法が治療の選択肢となる可能性がある。SCD小児患者を対象とした第Ⅲ相試験DOVEでは、アデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12阻害薬プラスグレルはVOC発生率を軽減する傾向が示されたものの、プラセボとの有意差はなかった(N Engl J Med 2016; 374: 625-635)。同試験におけるプラスグレルの血小板阻害はわずか25%と目標(30~60%)に届かず、より高度な血小板阻害が治療効果をもたらすかどうかという問題が残された。

16カ国53施設の193例が対象  

 HESTIA 3試験は、2018年9月~19年10月に、アフリカ、欧米、中東、アジア(インド)の16カ国53施設で実施。心血管病の成人患者の血栓性イベント予防に用いられるチカグレロルが、SCD小児患者のVOC発生率を減少させるかどうかを検討した。P2Y12受容体を直接的かつ可逆的に阻害するチカグレロルは、出血リスクを一定程度に抑えて、DOVE試験で観察された値よりも高い血小板活性阻害(ベースラインとの比較で35%超~80%未満)を達成すると予測される用量を使用した。

 対象は年齢2~17歳、体重12kg以上、遺伝子型がHbSSまたはHbS/β0と診断され、直近1年以内にVOCを2回以上経験したSCD患者193例で、チカグレロル群15mg/30mg/45mg(体重12~24kg未満/25~48kg未満/49kg以上)101例とプラセボ群92例に1:1でランダムに割り付け、1日2回経口投与した。  

 脳卒中頭蓋内出血などの既往歴、出血リスク増加を伴う合併症、ヘモグロビン6g/dL未満、血小板数100×109/L未満、輸血療法下、非ステロイド抗炎症薬、抗凝固薬または抗血小板薬の継続使用、未治療の活動性マラリア例などは除外した。 

 主要評価項目は、疼痛発作/ACSの複合と定義したVOC発生回数の減少とした。副次評価項目は、疼痛発作数と期間、ACSイベント数、入院または救急科受診を必要とするVOC発生回数などとした。

血小板阻害は目標達成  

 ベースライン時のチカグレロル群とプラセボ群の平均年齢はそれぞれ10.4歳と10.1歳、女性が48%と47%、黒人またはアフリカ系米国人が59%と55%、遺伝子型HbSSが86%と90%、直近1年以内のVOC数2~4回が98%と97%、ヒドロキシ尿素使用率は64%と63%だった。  

 VOCの推定年間発生率は、チカグレロル群で2.74(95%CI 2.16~3.48)、プラセボ群で2.60(同2.01~3.34)、発生率比(RR)は1.06 (同0.75~1.50、P =0.7597)と両群に有意差がなかった。この結果は、年齢層別(12歳未満/以上)およびベースライン時のヒドロキシ尿素使用の有無別の解析でも一貫していた。

 また、いずれの副次評価項目においても、チカグレロルの有効性は確認できなかった。VOCによる入院または救急科受診は、チカグレロル群で42例、プラセボ群で27例、VOCによる合計入院日数はそれぞれ526日(長期入院が数例)と256日だった。チカグレロル投与前と投与2時間後の血小板阻害の中央値は、6カ月目でそれぞれ34.9%と55.7%と、予測値を上回っていた。

出血率は両群で同等だが、チカグレロル群1例に大出血  

 チカグレロルとプラセボの曝露期間中央値は、それぞれ296.5日と288.0日だった。チカグレロル群の9例(9%)とプラセボ群の8例(9%)に、 1 回以上の出血イベントが発生した。うちチカグレロル群の1例(1%)は大出血(致死的脳内出血)、その他は全て小出血に分類された。  

 重篤な有害事象は、チカグレロル群で44例(44%)とプラセボ群の29例(32%)よりも高率に見られ、主に鎌状赤血球貧血によるものだった(それぞれ39%、26%)。さらに治療中の死亡はチカグレロル群3例(頭蓋内出血敗血症および原因不明の突然死)とプラセボ群1例(鎌状赤血球貧血)の計4例が報告された。

小児では血小板阻害による便益は不明確

 以上の結果から、Heeney氏らは「現時点では、チカグレロルはSCD遺伝子型HbSSおよびHbS/β0を有する小児患者のVOC予防には有効ではない。SCDにおけるVOCの予防と治療には、重要なアンメットニーズが引き続き存在する」と結論している。  

 DOVE試験よりも高度な血小板阻害が達成されたにもかかわらず、チカグレロルの有効性が示されなかった点について、同氏らは「P2Y12阻害薬による血小板阻害は、SCD小児患者のVOC軽減に寄与しないことが示唆された。理由の1つとして、小児患者では血小板活性化の程度と累積的な血管内皮損傷が、成人患者ほど大きくないことが考えられる」とコメントしている。

坂田真子