自治医科大学皮膚科学講座准教授の神谷浩二氏および教授の大槻マミ太郎氏は、日本乾癬学会が実施した国内の膿疱性乾癬患者291例における疫学調査結果をJ Dermatol(2022年9月24日オンライン版)に報告した。膿疱性乾癬のうち疱疹状膿痂疹の大部分は女性患者であること、膿疱性乾癬治療の44.0%に生物学的製剤(Bio)が用いられていることが明らかになった。
131医療機関の登録患者を後ろ向きに解析
日本乾癬学会は1982年以降に国内で登録された乾癬患者を対象に、毎年疫学調査を実施しており、乾癬の発症年齢の変化、併存疾患、治療の動向などの重要な情報を得ている。
乾癬のうち膿疱性乾癬(汎発型)はまれかつ重篤な病型であり、大部分を占める尋常性乾癬とは臨床実態が異なることが、近年示唆されている(Expert Rev Clin Immunol 2019; 15: 907-919)。
日本では1996年に膿疱性乾癬(汎発型)患者541例の特徴が報告され(Acta Derm Venereol 1996; 76: 68-71)、以降症例数を増やしながら報告を継続。2018年には、同講座教授の小宮根真弓氏ら日本皮膚科学会のガイドライン作成委員会により『膿疱性乾癬(汎発性)の管理・治療に関するガイドライン』としてまとめられている(J Dermatol 2018; 45: 1235-1270)。
しかし、日本での膿疱性乾癬患者の特徴や治療動向に関する研究はほとんど行われていない。日本乾癬学会は2017年から毎年、膿疱性乾癬の疫学調査を実施しており、今回は2017年4月1日~20年3月31日に131の医療機関で登録された患者291例(男性47.4%、平均年齢57.4歳)を対象に、後ろ向きに解析した。
発症時年齢は平均48.5歳、90歳代も
調査項目は、①膿疱性乾癬の診断時・発症時年齢、②患者背景、③重症度および病型、④家族歴、⑤既往歴および併存疾患、⑥増悪因子、⑦局所感染、⑧初診時の皮膚病変分布、⑨治療―とした。
①について、診断時年齢は1~96歳と幅広く、年齢分布は多い順に70歳代(18.9%、男性33例、女性22例)、60歳代(18.6%、同34例、20例)、50歳代(17.5%、同29例、22例)、40歳代(14.4%、同16例、26例)、80歳代(10.3%、同13例、17例)などで、10歳未満および90歳以上はともに2.4%だった(それぞれ男性4例、女性3例、同2例、5例)。
発症時年齢は平均48.5歳(男性50.8歳、女性46.4歳)で、主に40歳代(15.8%、男性25例、女性19例)、60歳代(15.1%、同27例、15例)、20歳代(14.0%、同12例、27例)、30歳代(11.9%、同17例、16例)、50歳代(11.9%、同18例、15例)で発症していた。一方、80歳代(9.4%、同12例、14例)、90歳以上(0.7%、全て女性2例)や10歳未満(4.0%、男性5例、女性6例)での発症例も見られた。
病変が体表面積20%以上例は12.0%
②の患者背景は、BMIが平均22.8(男性23.0、女性22.7)で、アルコール摂取率が34.4%(同44.2%、25.5%)、喫煙率が29.9%(同43.5%、17.6%)。既往歴は、アトピー性皮膚炎が3.8%(同3.6%、3.9%)、気管支喘息が4.1%(同2.9%、5.2%)、尋常性乾癬が39.9%(同49.3%、31.4%)、乾癬性関節炎が12.4%(同12.3%、12.4%)などだった。
③の乾癬重症度および病型について、病変が体表面積(BSA)の5%未満、5~10%、10~20%、20%超の患者割合は、それぞれ10.7%(男性8.0%、女性13.1%)、10.0%(同8.7%、11.1%)、12.0%(同10.9%、13.1%)、57.0%(同60.1%、54.2%)だった。
膿疱性乾癬(汎発型)の病型は、急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch 型)が59.8%(男性61.6%、女性58.2%)、circinate annular型が8.2%(同8.0%、8.5%)で、疱疹状膿痂疹(6.5%)の大半は女性(11.1%)で、男性は1.4%と少なかった。 アロポー稽留性肢端皮膚炎が4.8%(男性4.3%、女性5.2%)だった。
増悪因子は感染症が最多
④は、乾癬の家族歴を有していたのは4.1%で、掌蹠膿疱症(PPP)の家族歴は1.7%だった。
⑤の既往歴および併存疾患を有していたのは67.4%(男性75.4%、女性60.1%)で、主に高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、心疾患、脳血管疾患など。
⑥の増悪因子については27.5%に見られ、感染症(26.3%)、ストレス(25.0%)、特定の薬剤(22.5%)、妊娠(15.0%)が挙げられた。
⑦の局所感染は11.7%に見られ、歯性感染(52.9%)、扁桃炎(20.6%)、副鼻腔炎(11.8%)が含まれた。
⑧の初診時の皮膚病変分布に関しては、下肢(83.8%)、腹部(78.4%)、上肢(76.3%)、背部(74.6%)、胸部(72.2%)、臀部(56.7%)、頭皮(41.2%)、顔面(35.7%)、首(33.7%)、耳(17.9%)、舌(2.1%)の順に多かった。
経口薬は58.4%に投与
⑨の治療法について、外用療法は77.3%に施行されていた。局所療法としてステロイド外用薬(67.1%)、活性型ビタミンD3外用薬(21.8%)、ステロイド外用薬+ビタミンD3外用薬併用(43.6%)、タクロリムス軟膏(1.8%)、その他(7.1%)が塗布されていた。
光線療法施行率は9.6%で、ソラレン長波紫外線(PUVA)療法が17.9%、ナローバンド中長波紫外線(UVB)療法が75.0%、ブローバンドUVB療法が3.6%、ターゲット型UVB療法が3.6%だった。
一方、全身療法のうち経口薬は58.4%に投与されており、エトレチナート(52.4%)、メトトレキサート(6.5%)、シクロスポリン(22.9%)、アプレミラスト(12.4%)、ステロイド(24.7%)、非ステロイド抗炎症薬(5.9%)などが用いられていた。
Bio中止またはスイッチは29例
Bioは44.0%に投与されており(バイオシミラー投与例はなし)、インフリキシマブ(INF:15.6%)、アダリムマブ(ADA:4.7%)、セルトリズマブペゴル(CZP:0.8%)、セクキヌマブ(22.7%)、イキセキズマブ(28.1%)、グセルクマブ(14.8%)、リサンキズマブ(10.2%)などだった。
Bioの中止またはスイッチが行われたのは29例で、スイッチ例における初回投与製剤はINF(7例)が最も多く、次いでADA(5例)、セクキヌマブ(5例)、イクセキズマブ(4例)の順であった。
スイッチ前後のBioを見ると、INFからADAまたはセクキヌマブへのスイッチが各3例、イクセキズマブが1例だった。
ADAからのスイッチはイクセキズマブが4例、リサンキズマブが1例で、セクキヌマブからADAまたはイクセキズマブが各2例、CZPが1例。イクセキズマブからグセルクマブが3例、CZPが1例だった。
Bio 3剤以上の投与経験例も存在
3種類以上のBioによる治療経験を有する患者は7例〔3種類(4例)、4種類(1例)、5種類(1例)、6種類(1例)〕で、初回がINF、2剤目はADAやセクキヌマブというケースが多かった。
顆粒球単球吸着除去療法(GMA)は9.3%に施行されていた。
今回の後ろ向き研究は、全ての日本人膿疱性乾癬患者が対象ではない。しかし、神谷、大槻の両氏は、今後の膿胞性乾癬の診療において重要な情報を提供し、膿疱性乾癬の動向に関する新たな知見を提供するものとしている。
(田上玲子)