これまで、不眠症患者の死亡リスクを上昇させる因子については、一貫した結果が得られていなかった。不眠症治療においては、睡眠薬の使用による死亡リスク上昇の可能性が示唆されているものの、死亡率への影響は不明だった。そこで佐賀大学病院薬剤部部長/教授の島ノ江千里氏、副部長の祖川倫太郎氏らは、多施設共同コホート研究J-MICC Studyに参加した日本人9万人超を対象に睡眠薬の使用と死亡の関連を検討。週1回以上睡眠薬を使用している者では、死亡リスクが1.3倍に高まることを明らかにしたとSleep Med2022; 100: 410-418)に発表した。

睡眠薬使用の男性で1.5倍、60歳未満で1.7倍

 対象は、2004~14年にJ-MICC Studyに参加した日本人9万2,527例(年齢35~69歳)。死亡リスクが高いがんの既往歴がある者などを除外し、睡眠時間および併存疾患(糖尿病、循環器疾患、BMI、虚血性心疾患脳卒中など)などの共変量を調整したCox比例ハザードモデルを用いて全死亡のハザード比(HR)を算出。睡眠薬の定期的な使用は自己記入式アンケートを用いて評価した。

 平均8.4±2.5年の追跡期間中に1,429例が死亡した。睡眠薬の使用率は4.2%で、非使用群に対し使用群では全死亡リスクが有意に高かった(HR 1.32、95%CI 1.07~1.63)。使用群における全死亡との関連は、男性(同1.51、1.15~1.96)および60歳未満(同1.75、1.21~2.54)でより強かった。

 以上を踏まえ、島ノ江氏らは「非使用群と比べて、使用群では循環器系、神経系、中毒、外的要因などが関連する死亡が多く見られた。また、男性や60歳未満の者で死亡リスクが高かったことから、これらを念頭に置いてより慎重に薬物療法のリスクとベネフィットを考慮した不眠症コントロールの必要性が示唆された」と結論。その上で「本研究はベンゾジアゼピン系睡眠薬が不眠症治療の主翼を担っていた時期の調査結果であり、2014年以降は不眠症の薬物療法の選択肢が広がり、より安全な薬物療法の在り方が検討されている。そのため、今後は非薬物療法も含めた不眠症治療の長期的予後を評価することで、より安全で効果的な治療が可能になるだろう」と付言している。

(小野寺尊允)