英・Queen's University BelfastのKatie Glover氏らは、糖尿病足潰瘍(DFU)の創傷治癒パッチとして用いる抗菌薬含有スキャフォールド(足場)を三次元(3D)バイオプリンティングにより作製し、その詳細をDrug Deliv and Transl Res(2022年1月11日オンライン版)に発表した。足場は優れた機械的特性を示し、in vitroで4週間にわたり抗菌薬を放出して大腸菌および黄色ブドウ球菌の増殖を阻止した。
身体の動きに合った柔軟なレボフロキサシン含有足場
Glover氏らは今回、生分解性ポリマーのポリカプロラクトンとフルオロキノロン系の広域抗菌薬レボフロキサシンを混合し、Bio-Xバイオプリンター(スウェーデン、Cellink社)を用いて温度190℃、圧力175kPa、1層の厚み0.41mm、速度2mm/秒の設定で押し出し式バイオプリンティングにより足場を作製した。足場の形状はハニカム(六角形)、正方形、パラレル(細い溝形)1列、三角形、パラレル2列の5種類とし、各形状の機械的特性を評価した。
足場は創傷部位に支持構造を提供すると同時に、通常の身体の動きに伴う皮膚の伸縮に対応できる柔軟性を持つことが求められる。正方形は引張剛性が最も低く(25.30±2.9N/mm)、創傷治療用の足場として最適な柔軟性を示した。
次に、レボフロキサシン濃度0.5%、1.5%、3.0%の正方形足場を用い、in vitroでの薬剤放出を解析した。いずれの濃度でも初期にバースト放出が見られ、0.5%、1.5%、3.0%でそれぞれ4日目、7日目、14日目に定常状態に移行した。放出期間は3.0%足場で最も長く4週間に及んだ。
レボフロキサシン濃度0.5%と1.5%の正方形足場を用いた解析では、in vitroで大腸菌と黄色ブドウ球菌の発育阻止が認められ、阻止円直径に濃度による大きな差はなかった。
糖尿病患者の急増による経済的負担の軽減に期待
DFUは糖尿病患者の約25%に見られる重篤な合併症で、 診断時点で50%超が既に感染症を発症している。治療は複雑で臨床的および経済的な負担が大きい。治療が失敗することも多く、70%超が下肢切断に至る。
今回の結果について、Glover氏らは「バイオプリンティング技術を用いて作製した足場は、創傷の治療に適した機械的特性を持ち、創傷サイズに合わせて簡単に調節が可能。低費用でもあるため、DFUの治療に大きな変革をもたらし、糖尿病患者の急速な増加による経済的負担の軽減につながる可能性がある」と結論。「抗菌薬の経口投与は高用量が必要で毒性を誘発するリスクがあり、静脈内投与は侵襲的で入院を要する。抗菌薬を持続的かつ局所的に投与できるパッチには、全身性副作用のリスクが低く投与が容易であるというメリットがある」と付言している。
(太田敦子)