後ろ向き研究により、新たに経口抗がん薬を処方された患者の10~20%が実際には薬剤を受け取っていないことが示されているが、その理由は検証されていなかった。米・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのSahil D. Doshi氏らは、新たに経口抗がん薬を処方された約1,200件の医療記録を基に前向き研究を実施。結果をJAMA Netw Open2022; 5: e2236380)に報告した。

未受領の理由を分類して検討

 近年、経口抗がん薬の処方が増加しており、2020年に米食品医薬品局(FDA)が新規承認したがん治療薬の67%は経口薬である。経口薬による治療は簡便である一方、多くの新薬の例に漏れずしばしば高価であり、投与開始の遅延や治療失敗を防ぐ上で、アドヒアランスの重要性への理解が必要とされている。

 Doshi氏らは、大都市部の学術医療施設である米・Columbia University Irving Medical Centerの医療記録から、2018年1月~19年末の2年間に、経口抗がん薬を新規処方された成人がん患者を特定。以前に同じ薬剤の処方歴がある者、乳がんに対する単独ホルモン療法の処方例、臨床試験の参加者は除外した。

 患者の人口統計学的背景、処方に関する詳細情報を含む臨床的背景、医療保険の種類、経口抗がん薬の配達日(または受領せずと記された日)などのデータを収集。3カ月以内に受領しなかった場合の理由を7項目〔①病勢悪化(死亡、ホスピス移行)、②経済的理由(自己負担が高額、保険却下など)、③医師による判断(治療薬変更、臨床試験参加)、④患者による治療変更希望、⑤患者による受診施設変更、⑥追跡不能、⑦不明・その他〕に分類し、多変量ランダム効果モデルにより、未受領に関連する因子を特定した。

最多理由は臨床判断だが、経済的因子の影響度は不明

 対象は1,024例で、男性が53%、平均年齢±標準偏差は66.2±13.9歳、人種は白人が45%、アフリカ系米国人が14%、ヒスパニックが29%、その他が12%だった。保険の種類はメディケアが59%、メディケイドのみが16%、民間保険のみが25%だった。経口抗がん薬の処方は1,197件で、うち56%が分子標的薬で、37%がFDA承認から5年未満の薬剤だった。

 1,197件の処方のうち、158件(13%)が薬剤を受け取っていなかった。未受領の理由は意思決定に由来するもの(③+④)が73件(46%)で最も多く、内訳は医師判断が30%、患者希望が16%だった。病勢悪化は18%で、経済的理由によるものは13%だった。

 多変量解析では、血液がん患者と比べて転移のない固形がん患者で未受領との有意な関連が認められた〔オッズ比(OR)0.57、95%CI 0.33〜1.00、P=0.048〕。また、保険会社の事前承認が必要なケースで受領率が低い傾向が認められた(同0.69、0.47~1.01、P=0.06)。

 Doshi氏らは「経口抗がん薬の処方箋の8件に1件は薬剤を受け取っておらず、この割合は過去の後ろ向き研究結果と一致していた。未受領の理由として最も多かったのは医師または患者による治療法変更の判断で、理由が適切なものも含まれることが示唆された」と結論。一方で「今回の研究では経済的因子がどの程度関与しているかは不明であり、今後の研究や治療アクセスを高める介入が望まれる」と付言している。

(小路浩史)