新クラスの経口糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は血糖降下作用だけでなく、血圧低下および推算糸球体濾過量(eGFR)の低下抑制作用を有することが近年報告されている。横浜市立大学循環器・腎臓・高血圧内科学の小林一雄氏、教授の田村功一氏らの研究グループは、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のそれらの効果を検討する後ろ向き研究を実施。その結果、SGLT2阻害薬の方が優れていたとSci Rep(2022; 12: 16106)に発表した。結果を踏まえ、小林氏らは「今後は高血圧を合併している糖尿病患者に対し、SGLT2阻害薬を積極的に投与することが期待される」としている。
SGLT2阻害薬には心・腎保護、体重減少、降圧など幅広い利点
成人2型糖尿病患者に対する治療薬としてのSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の利点は、血糖低下効果にとどまらず、大規模臨床試験から心不全および腎不全の発症抑制効果など幅広い有益性が報告されている。また、両薬は体重減少、血圧低下、脂質代謝改善など、他の血糖降下薬にはないさまざまな作用を有することも明らかになり、これらは臓器保護作用の1つと考えられている。
だが、臓器保護効果についてSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を直接比較検討した臨床研究はこれまでにない。そこで小林氏らは、両薬の降圧効果や腎保護効果を比較検討するため、実臨床データを基に傾向スコアの重み付け解析(IPW)を用いて解析した。
対象は、神奈川県内の医療機関約30施設に通院中の2型糖尿病患者のうち、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の投与例。症例データの収集には、神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会の協力を得た。
糖尿病患者624例が対象、血圧管理の達成率を直接比較
小林氏らは以前、慢性腎臓病(CKD)を併発している2型糖尿病患者624例を対象に後ろ向き観察研究を実施し、SGLT2阻害薬投与により蛋白尿の指標となる尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)が低下したこと、血圧低下作用が同薬の腎保護作用と相関することを報告している。また、GLP-1受容体作動薬を投与した2型糖尿病患者547例を対象とした後ろ向き観察研究も実施(結果は現時点で未公表)。両研究の登録患者から、両薬を併用しておらず、かつ治療前血圧が130/80mmHg以上のSGLT2阻害薬投与の384例、GLP-1受容体作動薬投与の160例例を抽出し、今回の研究に組み入れた。
投与期間中央値は、SGLT2阻害薬群が32カ月(範囲12~55カ月)、GLP-1受容体作動薬群が48.5カ月(同12~123カ月)だった。両群の背景を調整するため、傾向スコアによる6パターンの重み付け法(IPW)を用いた。主要評価項目は血圧管理の目標達成率とした。
eGFRの年間変化量で有意な上昇示す
解析の結果、主要評価項目である血圧管理の目標達成率は、GLP-1受容体作動薬投与群に比べSGLT2阻害薬投与群で有意に高く、統合されたオッズ比(OR)は2.09(95%CI 1.80~2.43)であった。
また、最も両群の標準偏差が小さ傾向スコアが0.05~0.95の症例のみを抽出するweight trimmingを施した平均処置効果(ATE)モデルを用いた、一般化線形モデル解析の結果、GLP-1受容体作動薬群と比べSGLT2阻害薬群では拡張期血圧や平均動脈圧の有意な低下(それぞれ−3.8mmHg、−4.1mmHg)が認められた(順にP=0.006、P=0.01)。
体重の変化量の評価では、GLP-1受容体作動薬に比べSGLT2阻害薬群で−1.5kg(範囲−2.7~−0.4kg)の有意な減少が見られ(P=0.008)、eGFRの年間変化量は1.5mL/分/1.73m2(範囲0.05~2.9mL/分/1.73m2)の有意な上昇が認められた(P=0.04)。
血圧管理に有効、腎保護に寄与
今回の知見から、厳格な血圧管理を求められる糖尿病患者において、SGLT2阻害薬は血圧管理に有効であり、腎保護につながることが確認された。小林氏は「2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬と比べSGLT2阻害薬が腎複合転帰において優れていた」と結論。その上で「今後は高血圧を合併している2型糖尿病患者に対し、SGLT2阻害薬の腎保護効果を考慮した上で積極的な投与が期待される」としている。
ただし、同研究は後ろ向き研究であり、傾向スコアを用いているものの全ての交絡因子は調整されていないため、「前向き研究での結果の検証が期待される」と付言している。
(小沼紀子)