複数の慢性疾患に罹患している状態である多疾患罹患(multimorbidity)が、骨折後の超過死亡リスクを高めることが示された。オーストラリア・Garvan Institute of Medical ResearchのThach Tran氏らは、50歳以上の脆弱性骨折患者30万例超のデータを解析した結果、骨折患者に見られる多疾患罹患は男性で5群、女性で4群のクラスターに分類でき、特定の多疾患罹患クラスターと骨折部位の組み合わせで死亡リスクが大幅に上昇したとJAMA Netw Open2022; 5: e2235856)に発表した。例えば、多疾患罹患の男性がん患者では大腿骨近位部骨折の1年後の超過死亡率が40.8%に上った。

骨折時に約半数が多疾患罹患

 解析対象は、1951年1月1日以前に出生し2001年1月1日~14年12月31日に新規脆弱性骨折を来したデンマークの成人30万7,870例〔男性31.0%(骨折時の平均年齢72.3歳)、女性69.0%(同74.9歳)〕。同国の患者登録から骨折部位、事前に指定した32の慢性疾患の骨折前5年以内における罹患記録、死亡に関するデータを抽出し解析した。

 全体の42.9%(男性50.7%、女性39.4%)が骨折時に2つ以上の慢性疾患を有していた。最も有病率が高かったのは心血管疾患(同77.2%、72.8%)、次いでがん(同33.9%、32.1%)、高血圧(同30.3%、34.8%)、慢性肺疾患(同28.2%、27.3%)の順だった。

 潜在クラス分析の結果、骨折時の多疾患罹患は次の5群(女性は4群)のクラスターに分類された:①併存疾患が1つ以下の患者が大半を占める非多疾患罹患クラスター(男性60.5%、女性66.5%)、②心血管疾患クラスター(同23.7%、23.5%)、③糖尿病クラスター(同5.6%、5.0%)、④がんクラスター(同5.1%、5.0%)、⑤肝疾患/炎症性疾患の混合クラスター(男性のみ5.1%)。

大腿骨近位部骨折などで特に死亡リスク上昇

 中央値6.5年の追跡期間中に男性4万1,017例(43.0%)、女性8万1,727例(38.5%)が死亡していた。

 特定の多疾患罹患クラスターと骨折部位の組み合わせによる死亡リスクは、個々の骨折または疾患単独による死亡リスクと比べて大幅に上昇することが示された。特に、近位部(大腿骨近位部、大腿骨、骨盤、脊椎、上腕骨、肋骨、鎖骨)骨折の患者で、多疾患罹患により死亡リスクが大幅に上昇していた。

 例えば、がんクラスターの男性における大腿骨近位部骨折の1年後の超過死亡率は40.81%(95%CI 38.13%~43.57%)で、非多疾患罹患クラスターの男性における大腿骨近位部骨折後の19.89%(同19.06%~20.75%)と比べ約2倍、がんクラスターの男性における前腕骨骨折後の7.59%(同5.43%~10.21%)や手の骨折後の6.50%(同3.81%~10.12%)と比べ約6倍だった。

 以上の結果から、Tran氏らは「骨折患者は複数の慢性疾患を有することが多く、多疾患罹患は骨折後の超過死亡率の上昇に関連していた。多疾患罹患と骨折の組み合わせで死亡リスクが高まるという結果は、多疾患罹患という高リスクの状態にある患者に対する骨折予防の重要性を強く示すもので、より包括的なアプローチが求められる」と結論している。

(太田敦子)